Jun潤

あの夏のルカのJun潤のレビュー・感想・評価

あの夏のルカ(2021年製作の映画)
4.9
2022.04.08

こちらも『私ときどきレッサーパンダ』同様、劇場公開の予定がコロナ禍の影響により配信限定となった作品。

イタリアの美しい海の中に暮らすシー・モンスターのルカ。
陸の上は怖いと教えられて育ったルカは、心の中では陸の上に憧れていた。
船から捨てられたものを見つけた時、ルカは陸の上で暮らすシー・モンスターのアルベルトと出会い、陸の上での生活を知る。
ベスパのスクーターに憧れ、自作し始める2人。
行動力に長けるアルベルトと、想像力と発想力に長けるルカは友情を深めていくが、家族に叱責され、深海へ行かされそうになる。
家出同然でポルトロッソに来たルカとアルベルトはベスパに乗るエルコレに絡まれ、ポルトロッソ・カップのこと、オンボロのベスパを買えるだけの優勝賞金のことを知り、エルコレにレースで勝とうとするジュリアという少女に出会う。
チームを組むことにした3人はレースに勝つべく特訓を開始する。

シー・モンスターと人間によるジュブナイル・ストーリー。
家族愛、友情、そして自分の夢。
初めて知る外の世界、初めての友達、初めて歩いて自転車に乗った、初めて喧嘩をした。
言葉を覚えていない赤ん坊では伝えられない生まれて初めてを、少年になったシー・モンスターが感情を言葉と表情で伝える。

家族や友情に縛られても、本当に自分が欲しいもの、したいことを見失わず、努力や真心をもって行動することで周囲の気持ちすら変えていく。
それはついに種族の壁を超え、1人の人間として認められるまでに至る。

これはまさにシー・モンスターという人ではない存在でもって人間を描く物語。
序盤は誰もがヴィランになり得そうな雰囲気でも、積み重ねてきた行動と純粋な言葉、綺麗事で世界が本当に綺麗になる様を魅せてくれました。
きっと人の世界で生きていくルカにはこれからも苦難があるかもしれませんが、「あの夏の」出来事が支えになってくれる。
「少年時代」(日本語吹替版の主題歌)の思い出が心の中に在り続ける。

物語の主人公としてはルカが限りなく理想の少年主人公に近く、ジャンプの3本柱「友情・努力・勝利」を体現しているような存在でしたし、そのそばに人間、それもあの時期の少年に限りなく近いアルベルトの存在がありました。
口では大層なことを言うけど、心の中は臆病で、別れた父を想い続ける寂しがり。
自分にないものを持っているルカに嫉妬して、正体をバラし、それでもなお正体を明かしてでもルカを助ける。
ルカの成長と併せて、ジュリアの父親・マッシモとの交流が描かれ、旅立つルカの背中を押し、自分の居場所を見つける。
これほどまでに物語的に恵まれ、人間臭い中に愛おしい様が描かれるキャラクターがいたでしょうか。
理想的なダブル主人公でしたね。

こんなに胸を打たれるとは思ってもいませんでしたが、人生の一本登録レベルのド名作でした。
ぜひとも劇場で再上映していただき、多くの人に観てほしい超傑作。
Jun潤

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