わたがし

映画大好きポンポさんのわたがしのレビュー・感想・評価

映画大好きポンポさん(2021年製作の映画)
5.0
 ひたすら自己肯定感あがりっぱなしの90分だった。ひたすら自分は間違ってなかった、自分の選んできた道は正しかった、自分は今も昔もすごく高尚なことをしているんだ、という気持ちになる。もう普通の映画として観れなくて、この映画が1本の映画として良いのか悪いのか、好きか嫌いかもわからずに上映時間の3分の1ぐらいは泣き続けてた
 社会不適合者ぶって弱者芸してるんじゃなく、心の底から「ああ、俺は本当の本当に社会不適合者なんだな」「もう俺は映画しかやれることないな、この人生」と思って絶望してた時期があって、あの時の自分に観せてあげたい。俺は全くもって正しくて、ひとつも間違ってないんだという全能感を得られた。主人公への共感というよりかは、自分の正しさに感動してた
 観終わってから冷静になると、あまりに美談すぎるし、根性腐った人間がひとりたりとも出てこないし、こんなポジティブな問題だけ集中して考えれるほど映画作りはクリエイティブじゃないとかいろいろ考えたけど、その「あえてピカピカの美談のサクセスストーリーとしてサクッと語り切るスタンス」が、この映画のテーマそのものになってるという意味で、全く抜け目のない完璧な映画と思う。観客の母数を増やすための最も効率の良いストーリーテリングを試行錯誤してきたハリウッド大作映画文化へのリスペクトをひしひしと感じる
 編集のシーンのスペクタクル、こんなものを観せてくれてありがとうすぎる。映画編集という作業を一旦ロジックで語ってからエモーションに振り切る説明の流れそのものまで、まさに映画編集のそれ。自分もこれからもずっといろんなもの犠牲にして映画作ってきたいな、と死んだ目をしながら思った

【2回目】2021/06/14
 前よりは冷静に観れて、単純に1本の映画としての完成度がめちゃくちゃ高いことを実感した。キャラクターひとりひとりを「キャラクター」で終わらせない余念のない描き込み、ポンポさんという存在のリアリティとストーリー全体のリアリティが完全一致してる安心感(このストーリーは信じれる、と思う)、しかもこれを90分でやるという行為が素晴らしいという美学に対して若干皮肉を込めるところまでやるという。完全に「めちゃくちゃ良く出来たハリウッド映画」の後味
 具体的には実際にポンポさんみたいな人はいるんだろうか。いてほしいなという願望の物語なのか、いるからアーティストは羽を広げれるという物語なのか、まだまだ業界を知らない自分にはわからない。「ポンポさんみたいな存在の人」と出逢うか見つけるかがアーティストの躍進の第一歩という感じはする
 そしてポンポさんの言う「お涙頂戴映画で泣かせるよりバカ映画で泣かせるほうがかっこいい」という、創作と自意識とビジネスのごちゃごちゃ融合体的この価値観こそが、この物語の中でのポンポさんの立ち位置そのものになっている。作り手は今日も明日もポンポさんを感動させようと頑張る
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