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アメリカの友人のgeminidoorsのレビュー・感想・評価

アメリカの友人(1977年製作の映画)
5.0
何故だろう…
20代前半の頃に深夜TVで荻昌弘解説で名画劇場番組で初見の際、同時期のヴェンダース作品で映画館で観た"パリ・テキサス"や"ベルリン〜"より胸が騒いだ。
あれから数十年が過ぎ、世の中も自分自身もかなりの変化があって尚、本作はベスト1の座を譲らない。不思議だ。色んな意味で個人的な好みのツボを押さえてくれまくりなのかも知れない。
この何十年の間にデニス・ホッパーもブルーノ・ガンツも逝ってしまった。大好きな俳優が亡くなると本当に寂しく思う。



本作は誰もが心酔し感動に打ち震える等という代物ではないだろう。
例えばデビッド・ボウイがグラム脱出以降にヨーロッパに籠り、ブライアン・イーノ達とheroesを作った時期を"貴重"で"素晴らしい"とする輩ならば、ドンぴしゃな作品だと思う。
それは何というか…"隠遁迷走時に隕石衝突で静かに衝撃発光したオンリー1"みたいな?
マァ先ずお子様や精神的未熟児に、この虚構なリアリズムに彩られた"ピークを過ぎた男達の友情と孤独"は解る筈もないだろう。
良いとか悪いとかじゃなく、味わい深いタイミングや出逢う迄の軌跡とかって、理解や堪能の扉だから仕方ない。



敬愛して止まぬデニス・ホッパーが長らくハリウッドを離れていた時期の名演もさることながら、脇役陣の豪華さよ!

全編てらいの無い演出演技。

ドイツの曇り空の下に引きのアングル内の赤、黄、青等の配置。

子供やワーゲンや幻灯機風オモチャや洒落た小道具。

贋作画家の使う青い絵具や額縁工房内での金箔の美しさ。

各所にさりげなく散りばめられたキンクスやビートルズ歌詞の暗喩etc…

個人的には好きにならずに居られない要素は多いのだが、何よりハイスミスの原作を元から知るからこそ、実は三話から一つの脚本を仕立てここまで押し付けがましくはない寓話的サスペンスに仕上げたヴェンダースに脱帽する。逆に本当に一人で仕上げたのだろうか?とさえ思ってしまうのだが、この時期の彼には出来たのだろう。
その後の作品を鑑みても、監督の鋭気と技術が一番乗っていた時期なのは確かだ。



ちなみに原作を知れば判る事なのだが、ホッパーが演じる謎の人物リプリーとは、"太陽がいっぱい"の主人公リプリー、彼なのだ。
あの名作の"その後の彼"が、ここに密かに踠き生きている。

ちなみに…
劇中、彼がひとりカセットテープに日記として自らのコトバを吹き込む(録音する)シーン(部屋からベランダへ動きながら)がなんとも言えず……

リプリーよ!
嗚呼ホッパーよ!

永遠の反逆児に合掌したい。
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