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孤独の人の教授のレビュー・感想・評価

孤独の人(1957年製作の映画)
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明治天皇から現代に至るまでの「天皇」の人となりに興味が湧いて色々見たり聞いたり調べたりしている中で本作を知った。

特に太平洋戦争終結後に「人間宣言」を行い、天皇は「神格化」を否定して「荒人神」ではなくなった。
それより以前から、そうは言っても伝統的に学習院で学業に勤しむなどで、民間人との交流は生まれる。
本作は平成天皇(現在の明仁上皇)の皇太子時代の「御学友」たちの物語。

主役を務める津川雅彦= 千谷のまだまだあどけなく、晩年の太々しさのない演技の清々しさ。
殿下=皇太子という「空虚の中心」によって翻弄される少年故の屈折。
「若者」という当時における「新しい世代」の登場と、その主張と、旧時代(そして現在も機能する)権威によって傷ついていく様を丁寧に表現している。

一方でもう一人の学友である岩瀬を演じる小林旭の初々しさもありつつ、既に堂々たる貫禄と、外圧や「大人」に対して優等生としての気品を保ちつつ反抗してみせるナイーヴさとタフさを湛えた演技の凄み。

何より「空虚な中心」たる皇太子殿下の威光や権威に対して、若者たちが驚愕する「大人の権威」の脆弱さ。
それは修学旅行のエピソードや、戦後の自由を謳歌しているはずの、その青春のイベントである恋愛においても分断の象徴となる「権威」の禍々しさに集約される。

「権威」の前では、自ずとその支配を内面化し、遜ることの歪さと、まだ「子供」である立場でできる反抗が皇太子を銀座に連れ出す程度でしかないという無常。

それらの社会階級的な格差や分断によって「天皇制」を描写しつつ、その日本において絶対的な伝統と権威の象徴の「周辺」を描くという物語的な視点が見事。
そして、それらを前傾化させず、爽やかな青春映画として仕立てた作劇が素晴らしく、とても面白かった。
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