みやび

セブンのみやびのレビュー・感想・評価

セブン(1995年製作の映画)
4.2
★ラストは特に驚愕ではないです!が、観て損はない作品です。ただし、出来るだけ明るい時間に、明るい気分の時に観ましょう……観てる間も観終わった後もあんまり気分は良くなりません★

以下少々ネタバレあり。

私の大好きな『ファイト・クラブ』と同じくデヴィッド・フィンチャー監督作、さらに主演もブラッド・ピットです。エイリアン3を失敗した後、映画を撮る気の無くなっていたフィンチャー監督が、持ち込まれたこの脚本を読んで衝撃を受け、映画化を承諾しました。この作品が無ければこの後の沢山の素晴らしい作品が世に出ていなかったかもしれないと思うと……脚本家様々ですね。特に時代背景や作家性が大きな影響を及ぼしているとは言えないと思うのでその辺は触れずに、個人的な感想に移ります。

純粋な感情の動きとしてまず観終わって初めに感じたのは、やっと終わった……の安堵でした。というのも私は驚愕のラストという触れ込みに踊らされて初めから全ての人間を犯人と疑って観ていた上にずっとラストが気になり落ち着かなかったですし(これから見るみなさんにはその必要はありません、落ち着きましょう笑笑)、音響や画面の暗さ、あと単純にグロいショッキングな映像があるのでその辛さが大きすぎたのです。私はもともとスリラー(フィンチャー監督的に言うと、ホラー)は得意ではないのでおそらくもう一度は観ないし周りの誰にもオススメはしませんけど、気に入ったか気に入ってないかで言えば、最近みたのがちょっと私的に微妙なのが多かっただけにとても気に入りました。

どこが気に入ったかと言うと。まずは思想的な部分です。この映画の大きな軸は、キリスト教(神学)で、「7つの大罪」をモチーフにしています(この7という数字、サマセット刑事の定年もあと7日後だったりとやたらと強調されています)。私はキリスト教系の学校に通っており神学に興味がありますし、神曲も地獄篇だけですがとりあえず読みましたので、引き込まれました。次に演技。ブラッド・ピットの表情の演技が素敵でしたし、少し荒々しいところがあるけれど、愛妻家の若く熱意のある刑事という役どころは彼にぴったりでした。観ていて愛着の持てるキャラクター&俳優さんです。最後にラストとテーマについて。人間は人間である限り、罪を犯してしまわざるを得ないのか。性悪説が正しいのか。7つの大罪や他、罪から逃れることはできないのか。犯人は、「狂人じゃなくたって人は罪を犯すものだ。ほーらねお前もそうじゃないか!人間はすなわち悪なのだ、これで自分の正しさは証明された。世界は衝撃を受けるだろうはっはっはー」と思ったかもしれませんし、正直サマセットが必死に止めなかったところを見るとこんな奴殺しちまえ!的な無意識があったと思うので、ハッピーエンドではないだろうというのは明らかですが、完全にバッドエンドなのかと言うと私には疑問があります。というのも、犯人を撃つ時に、撃った彼は怒りに任せていた訳ではなくとても穏やかで冷静な表情をしていたのです。あれは一種の諦念、あるいは正義に燃えていた刑事の心が変わってしまった瞬間とも捉えることができますが、逆に怒りから自由になりとても穏やかな気持ちで、そして"自分の仕事"を楽しんだり達成感を感じたりすることなしにただただ妻(人)のため犯人を撃ったようにも見えます。まるで神の裁きのようではないですか。もう少し聖書に詳しくなれば、もっと詳しい解釈を加えることができるかもしれませんが、浅学非才なもので今はこのくらいしか書くことができません。ただ、サミュエルの最後の言葉「戦い続ける価値はある」には彼のポジティブな心の変化が感じられますし、ミルズのことを今後も気にかけているようでもあります。確実にミルズが、そして人間が"悪魔"に敗北したとも言い切れないのではないかと私は思います。脚本家は「暴力が暴力を生む」ということを書きたかったようなのでやっぱりミルズはダークサイドに落ちてしまったのかもしれませんが……。
どちらにせよ、善か悪か、バッドエンドかそうでもないのか、その辺りははっきりと明示されている訳ではないですし、途中の描写もキモチワルイので、もやもやとしたものが残る映画ではあるかもしれません。ただし、エンターテイメントとしてだけなら別ですが、なにか言葉にできなくても心に残るものがあったり、深く人間性や人生に関する何かを考えるきっかけになる素敵な芸術作品は、必ずしもわかりやすくスッキリするものである必要はないですよね。この映画は文句なしに素晴らしかったです。
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