パイルD3

愛してるって言っておくねのパイルD3のレビュー・感想・評価

愛してるって言っておくね(2020年製作の映画)
4.5
これはアメリカならではの重大なキーワードを提示して、強い衝撃を残す作品。
第93回アカデミー賞の短編アニメーション賞を受賞している。

僅か12分のシンプルなスタイルのアニメーションによって、子供を失った両親の喪失感を描いているが、いきなり題材はヘビー。

もし自分がその立場だったら、現実問題として、思い出を拠り所にして生きていくことなど出来ない。残されたことの悲しみ、それは永遠に続く苦しみでもある…。

ある意味考えたくはない究極の状況だけに、安易に共鳴、共感出来ることではないとも思う。
しかし、誰もが各々の距離でこの哀切極まりない境地に触れることは出来ることを作品が証明して見せた。
やわらかい表現手段でもあるアニメーションで作られた最大の理由は、“触れる“ということを観客に体験させるためだったのではないか?

全編通じてセリフが無く、人物たちの「影」が、本心と心象風景を雄弁なパントマイムとして表す手法になっている。

作り手によって精一杯考え抜かれた心の叫びと、気持ちを投影した「影」の存在にはいくつもの感情を掘り起こされて、揺さぶられる。

そんな喪失による言葉に出来ない静かな時間の流れが、ある瞬間急変して、一気に絶句させられてしまう。
正に主題とも言える重大なキーワードが、胸奥深く突き刺さってくる。

邦題は、 
If anything happens I Love Youの
“もしも何かあった時のために“の部分を省略しているので、少しわかりにくいと思ったのだが、長いからカットしているわけではなく、おそらくこの言葉が登場する場面の呼吸を大事にしたかったからかも知れない。

鉄拳のパラパラ漫画の「振り子」を思い出した。
優れた短編に出会う度に、映画は長さでは無いことを思い知らされる。
パイルD3

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