ノラネコの呑んで観るシネマ

ドライブ・マイ・カーのノラネコの呑んで観るシネマのレビュー・感想・評価

ドライブ・マイ・カー(2021年製作の映画)
4.8
とても味わい深い作品。
村上春樹の短編を膨らませた3時間の大長編は、一瞬たりとも目を離せない。
主人公の俳優・演出家の家福とドライバーのみさきの関係は小説通りだが、原作では一行触れられてるだけのチェーホフの「ワーニャ伯父さん」の比重が圧倒的に増えた。
多言語で上演される「ワーニャ伯父さん」の制作過程を丁寧に描写することで、家福の持つ哲学と言葉でコミュニケーションすることの難しさを伝え、徐々に劇の登場人物の葛藤が現実とシンクロしてくる仕組み。
他のキャラクターにも、ユニークな脚色の工夫がある。
特に家福の妻を元女優の脚本家とし、彼女の言葉がどこから紡がれるのかを重要な要素にしたのは、もう一人のキーパーソン、高槻の設定と共に秀逸。
この映画が言葉とその裏にあるものの関係に、どう折り合いをつけるかに関する作品だと言うことが明確になった。
画面に登場せずに最後まで映画を支配する妻役の霧島れいかと、朴訥なみさきを演じる三浦透子が素晴らしい。
サーブは家福の心の象徴なんだろう。
ガワはお洒落な村上春樹でも、終わってみると実に濱口監督らしい作品。 
人間とはなんとも面倒くさく、複雑なものだなぁ。
ブログ記事:
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