ラグナロクの足音

ドライブ・マイ・カーのラグナロクの足音のレビュー・感想・評価

ドライブ・マイ・カー(2021年製作の映画)
1.0
もちろん原作既読。ちょっと考えてみれば確かに濱口監督作品に通ずるテイストと村上春樹の小説は相性が悪いわけがない。共通するのは主人公に主体が欠落している、ある種の離人症状態だということだ(まあ川端に端を発する新感覚派のよく言われる特徴でもあるが)。それを体現するために無感情演技が常態化している(?)ポーカーフェイスの西島さんをキャスティングしたのは必然であるし、声のいい無名俳優たちを起用するのもブレッソン的な試みをする上で欠かせなかっただろう。しかし今回、特に映画全体が纏まるきっかけとなったのは、岡田将生の存在であろう。いってみれば彼の演技は西島とちょうど対局関係にある。くどいくらいの演技演技した演技が恐ろしいほど他キャラとのコントラストで目立ってしまっている。しかし、そのことが逆に家福という彼が演じるキャラの立ち位置と見事に相対し、小説を物語として機能させたと感じた。その点、個人的に彼の唯一の汚点作だと思っている前作の「寝ても覚めても」のつまらなさは、岡田の立ち位置が欠落していたからに他ならないとか思ったり。そして最後に、本作はこれまでにないほどショットが決まっていた。この構図の丁寧さがなければ、とてもじゃないけど2時間半でこの内容はきつかったと思う。作風は親密さの頃から特段変わらないわけだが、今後もこのスタイルでいくなら同じカメラ監督を使うべきだと勝手に進言しておく。
ラグナロクの足音

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