YukiSano

ドライブ・マイ・カーのYukiSanoのレビュー・感想・評価

ドライブ・マイ・カー(2021年製作の映画)
4.5
文学映画の最高峰。「羅生門」とか「ユリイカ」と同じレベルの傑作。

3時間あるけど、体感は2時間以下。

ひたすら細やかな心理を紡いでいるので常に緊迫感に包まれ、ふいに心の奥底の魂に触れてくる。

日常生活のシーンでは皆が幽霊のように振る舞っているのに、演劇のシーンになると命が通いだす。そして車の中という隔絶した空間の中で、人々は心をさらけ出し始める。その限定された舞台の中に詰め込まれた多層的な感情が濃密に充満してるので、映画的な感性を好む人には濃厚な体験が得られる。

また多人種、多言語が入り交じったまま行われる演劇という設定が斬新で、この設定がこの作品を大傑作たらしめている。断絶と隔絶した空間の中、矛盾をそのまま受け入れることでコミュニケーションは深まり魔法が生まれる。その空気感は今まで味わったことのない新たなる感情。この作品では演劇というフィルターを通してメタ的に己を見つめる入れ子構造の展開そのものが至福の創造性であり、いつまでも永遠に息ずくライヴ感覚を与えてくれる。

その生の生命力溢れる瞬間は「この世界の片隅に」や「ザ・ライダー」などでも感じた本当の現実を超えた「永遠の瞬間」とでも言いたくなるような特別な感情だった。

もはや、画が動く文学作品であり、賞レース関係なく永遠に語り継がれるであろう作品。

「寝ても覚めても」でも描かれた、裏切り、災害、チェーホフ演劇、北に向かうドライブの果て、が このような進化を遂げるとは思いも寄らなかった。

もし、この作品の微かな息ずかいと囁きと鼓動に耳を傾けることができたなら、静かに自分の魂の熱さに気づくことができる。そんな風に信じられる雄大な作品でした。
YukiSano

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