無味

ドライブ・マイ・カーの無味のネタバレレビュー・内容・結末

ドライブ・マイ・カー(2021年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

初夏、高速道路を走っているとき、右から飛んできたスズメがフロントガラスにコンとぶつかって、私の車が前進する風に負けてスズメはまた右にそれていって、私は右のサイドミラーでスズメがはらはらと中央分離帯付近に沈んでいく様子を見た。フロントガラスは一切汚れていなくて跡形もない。快晴だった。山間の高速道路はその後一面の田んぼ道に開けた。赤いアーチを描いた陸橋を超えた辺りで、すぐ下の田んぼ道を自転車立ち漕ぎで風を切る女子中学生か、この田舎でヘルメットをつけてないなら女子高生か、の姿が目に入った。膝下まである海苔みたいな制服のスカートと前髪の上がった化粧っ気のない顔にありがとうと思ったのが私と女子高生が最も接近した瞬間で、次の瞬間にはすれ違って、私はすぐに左のサイドミラーに視線を移したけれど女子高生の姿はそこに映らなかったから、後ろを振り向き左の後部座席の窓を通して女子高生を探そうとした。このまま事故を起こして死んでしまってもそれは本望かもしれないと、一瞬、大まじめに考えた記憶がある。女子高生はもう見えなかった。視線を進行方向に戻すと、青空のもと続いていくスカスカの高速道路に鼻がつんとなった。私はその時たしかに、ああ今私の車で流れているこの音楽は、田舎道を全力で立ち漕ぎしているあの女子高生のイヤホンから流れていて欲しいと思ったのに、なんの曲だったか思い出せない。
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