YukiSano

浅草キッドのYukiSanoのレビュー・感想・評価

浅草キッド(2021年製作の映画)
4.0
浅草版ニューシネマパラダイス。
驚異的な柳楽優弥の演技によって支えられた失われいく芸能のノスタルジックな実話。

劇団ひとりの前作、「晴天の霹靂」でも描かれた古き良き時代の芸人達の心意気や苦労を愛情いっぱいに描いていて知らない時代なのに懐かしさに溢れている。

大泉洋が今回も時代に取り残されていく芸人を愛嬌と哀愁たっぷりに表現。ビートたけしの師匠 深見千三郎という人を現代に甦らせた。

北野武という人の人生を見せるのではなく、彼の目を通して名だたる芸人を育てた深見という人物を紹介している物語。深見はテレビが支配する前の最後の純粋な舞台芸人だった。その彼の芸は今どこにも残っておらず伝説の人となっている。だからこそ、この作品で生き返らせたのだろう。

正直、唯一無二の芸術家 北野武の半生でもなければ、深見を通して戦後日本社会を考察してるわけでもない。徹底した人情ものに終始している。だけど、その眼差しは心から愛に溢れ、狂おしいまでに失われた時代に憧れを注いでいる。

奇しくもテレビや劇場を破壊するといわれているネット配信の旗手Netflixによって、この作品が生まれたという皮肉が時代そのものの変換を感じさせる。やがてネット配信もノスタルジックに語れるのだろうか。

とにかく柳楽の物真似を越えた魂の演技と、いつも通りの大泉洋なのに最高に粋な芸人魂の権化、深見千三郎を知るだけでも見る価値のある作品。寅さんが帰ってきたような気分にも包まれ、深見千三郎シリーズを望むほどである。
YukiSano

YukiSano