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ホロコーストの罪人のodyssのレビュー・感想・評価

ホロコーストの罪人(2020年製作の映画)
3.5
【予備知識は必要だが】

ホロコーストといえばナチ・ドイツのやらかした前代未聞の悪行ですが、近年ではナチ・ドイツだけでなく、周辺国家の責任も問われています。

第二次大戦中にドイツ軍に占領されたフランスで、フランス人によるユダヤ人狩りが行われていたことが明らかになり、その辺を描いた映画も数年前に公開されました。『黄色い星の子供たち』や『サラの鍵』がそうです。
大戦中はナチ・ドイツに占領されていたデンマークが、戦争が終わるとドイツの少年兵たちを拘束して、ひどい待遇の下、危険な地雷撤去の作業にこき使っていたという、「ナチの被害国もホロコーストまがいの行動をとっていた」事実を明らかにした『ヒトラーの忘れもの』もそう。

で、この『ホロコーストの罪人』ですが、大戦中にナチ・ドイツに占領されてしまったノルウェーで、ノルウェー人が率先してユダヤ人狩りを行い、ユダヤ人を収容所で虐待したり、汽船で悪名高いアウシュヴィッツに運んだという事実を映画化したものです。

ここではあるユダヤ人の家族を中心に、彼らがそれぞれどのような運命をたどったかを詳細に描き出しています。

悪いのはナチ・ドイツだけでなく、それに同調した自国民も、ということですね。
いざというときに、政府や他人の言いなりにならずに、自分の価値観や判断力をしっかりと保つ――これはこれに限らず大切なこと。

そういう真実を描いている点でよくできた映画ですが、日本人はノルウェーのことをよく知っているわけではないので、多少の予備知識を持ってから見た方がいいでしょう。

例えば作中にちょっとだけ言及がある国民連合は、ノルウェーのナチ政党で、ノルウェーがナチ・ドイツに占領されると、この政党がドイツの下請けになってノルウェーを支配していたのです。

やはり名前だけ出て来るホーコン七7世は、当時のノルウェーの国王で、ナチ・ドイツから「黙って降伏しろ」と言われたとき拒否した王様。結局ノルウェーとドイツは戦力に差がありすぎて、ノルウェーは戦ったものの降伏せざるを得なくなるのですが、王様はノルウェー国内を逃げ延びて、最終的には英国に亡命して国民を激励し続けるのです。

ナチを拒否し続けた王様と、ユダヤ人差別に同調した一般国民(の一部)。
階級では人間の価値は計れない、ということの一例でもありましょう。
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