90年代のひんやりとざらついた空気がそのまま真空パックされていて、始まった瞬間タイムスリップしたような気持ちになった。レンタルビデオ屋さんでタイトルとジャケットだけを頼りに借りた映画を毎週見ていた10代の頃。思えばあの頃の映画は今よりもっと神秘的なものであった。ビデオケースの中に閉じ込められた物語は、貝殻の中の真珠のように開けてみるまでその大きさも輝きも不確かだった。予告もそんなに手軽には見れなかったので、ビデオデッキに入れて再生ボタンを押して初めて触れる世界は、当たり外れも大きかったけど一つ一つの出会いが鮮やかだった。
田舎に住んでいたこともあり、今よりずっとずっと世の中から遮断されていたので、まさに映画は世界と文化の窓であり、他に情報を得る術を知らない子供だった私は貪るように映画を観ていた。(今思えばかなり偏った摂取方法ではあった) 余りにも無知で何者でもない自分が不安で不安で恐ろし過ぎて、でもその感情が《恐怖》だということもよくわかっていなかったんだと思う。そんな愚かで可愛らしいあの頃の自分に「殆どの大人は何者でもないけどみんなどうにか生きてるし、映画が見放題になる凄い未来くるよ」って教えてあげたい。
そんな?ノスタルジーにどっぷり浸らせてもらえる本作は、映像も演出も台詞も小道具も凡ゆるツボを押さえまくっていてとても良かったんだけど、どうしても近親相姦への生理的な気持ち悪さが勝ってしまって手放しでは受け入れ難かった。異性の兄妹がいる人はかなりハンデなのでは。ただ「映画は理解するものではなく、感じるものだと思っている」という監督の言葉には200%同意する。