MasaichiYaguchi

なんのちゃんの第二次世界大戦のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

3.7
ロケ地である淡路島を舞台に、太平洋戦争の平和記念館設立で市長再選と身内の過去を改竄しようと目論む現職市長の清水昭雄と、そうはさせじとするBC級戦犯遺族である南野家の人々の攻防を笑いを交えて描く本作を観ると、改めて戦後75年を過ぎた日本について考えてみたくなる。
本作の中で主人公の市長は平和記念館設立の背景として、戦争の悲惨さを語り継ぎ、二度としない為にもと訴えているが、平和を希求するだけ、祈るだけ、反戦を説くことだけで平和が実現するほど、現在の世界情勢は甘くないことは誰でも理解していると思う。
私を含めて戦後生まれの世代は日本の総人口の85%以上となり、戦争の不条理を体験者から聞ける時代は終わり、日本が進路を誤った記憶は過去のものとなりつつある。
更に中国や北朝鮮に示威的な行動を突き付けられると、祖国防衛という、やや好戦的な声も高まってくる。
そういった時、戦争に対する真の理解、イデオロギーや国の面子に拘らず、「負の歴史」を見詰めることから得る理性が重要になってくる。
だから「負の歴史」を糊塗し、平和希求ということに塗り替えようとする清水昭雄のやり方に、加害者であるのと同時に被害者でもあった祖先を持つ南野家の人々は黙っていられる筈もない。
「アメリカの核の傘」の下、それに追随する日本を寓意的に表現するものでミシシッピアカミミガメが本作には登場するが、終盤でそれが大騒動を引き起こす。
本作のPRチラシに赤字で「令和の幕開けに隠されたニセモノの平和をぶち壊せ!」というキャッチコピーがあるが、コロナウイルスとの戦いやオリンピック開催の可否ばかりが喧伝されている今、改めて日本の戦争と平和について見詰め直す時期にきているのかもしれない。