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三姉妹のnetfilmsのレビュー・感想・評価

三姉妹(2020年製作の映画)
3.7
 三姉妹という文学的なタイトルの響きに騙され、市川崑のような文芸大作か小津安二郎の慎ましやかな小市民映画を期待してはいけない。これは現代を生きる女性たちの生き辛さを凝縮したような作品だ。韓国・ソウルに暮らす三姉妹はそれぞれがぞれぞれに深い悩みを抱えている。長女ヒスク(キム・ソニョン)はシングルマザーで、客の来ない花屋を営みながら、別れた夫の借金を返し続けている。娘はバンギャで、言い方は悪いが救いようのないバカ娘だ。三女ミオク(チャン・ユンジュ)は劇作家だが、スランプに陥り旦那に殴る蹴るし、昼夜問わず酒浸りの日々を送るメンヘラ気質を拗らせた女性だ。その上彼女は電話魔で、姉妹の生活を顧みることなく、昼夜問わずテレフォン・コールする。次女ミヨン(ムン・ソリ)だけは唯一まともで、大学教授の夫と2人の穏やかな子どもと高級マンションに暮らしているように見えるが、仮面の下にひた隠しにした現実は仄暗い。三姉妹の病巣は根深い。それは間違いなく韓国社会の因習に起因し、女性たちをひたすら縛り付ける。家父長制と儒教思想が根強い韓国では、妻や母親は社会的にラベリングされ、型に嵌められる。男子の兵役も大きいかもしれない。三女は最初から韓国社会の厳しいレールから外れており、対照的に次女はエリート層であるかのように振る舞う。長女は三女と次女の真ん中あたりにいて、行ったり来たりする。

 ムン・ソリという人は何か80年代の手塚理美と90年代の白島靖代を足して2で割ったような独特の雰囲気を持った人で、とにかく演技が達者で目が離せない。熱心に教会に通い、聖歌隊の指揮者も務める彼女は三女を腫物のように扱いながら自分は社会に溶け込み、エリートとしての体裁を保とうとする。だが彼女の家が実は一番危ないバランスで、少し揺さぶれば崩壊しそうな雰囲気さえする。映画そのものは受難の繰り返しばかりで、光と影で言えば影の部分だけを拾い集めるから厄介だ。イ・スンウォンがシニカルなブラック・ユーモアを繰り返す意図はわかるのだが、三姉妹の物語として見れば微妙に食い合わせは良くない。というか途中まではこれが三姉妹の物語である必要性はないと感じた。3人の友人同士でも、生き辛さを感じるバラバラな3人の女性の物語でも話は整合性はあると思ったが、クライマックスの20分間を見通せば、これは紛れもない三姉妹の物語として必然性を持った物語だと深く頷く。父の誕生会で吐露される三姉妹の三者三様の物語は、のっぴきならない予測不可能な展開を見せる。前半90分の低調な展開とは打って変わり、ここでは体裁を取り繕うばかりだった三姉妹の家族ゲームが真に幕を開ける。韓国社会もやはり「本音」と「建前」がモノ言う世界なのだ。その鮮やかな空気の質的・量的変化は前半90分の「タメ」にあったのは理解するものの、やや遅きに失した印象だ。
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