水鳥

三姉妹の水鳥のネタバレレビュー・内容・結末

三姉妹(2020年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

父が死にますように、ではなく、父以外の家族全員が死んで天国へ行けますようにというところ。家から逃げてきて、姉と弟を虐待する父を通報するよう頼むが、逆に「父親を通報するなんて」と責めたててきた近所の男たちのシーンが浮かんだ。虐待する父だけでなく、虐待を容認する社会全体から逃れたいという願いが、あまりにも切実に迫ってきて、泣いてしまった。次女役兼共同プロデューサーであるムン・ソリは、「三姉妹を演じたわたしたちには、それぞれ娘がいます。彼女たちが暴力や嫌悪の時代を越えて、明るく、堂々と笑いながら生きていけるような社会になって欲しい、という願いを込めた作品です。」と言っている。虐げられる立場にある人々(この映画では、家父長制の元に育つ女性)を励ますパワーをもっている人がいる、というだけで嬉しく、励まされるし、私もそのエンパワメントに加わりたいと思う。私は虐待を受けたことはないけれど、姉がいて、弟がいる。立ち位置的には次女ミヨンと同じだけれど、ヒスク、ミヨン、ミオクそれぞれに、何かぼんやりした既視感というか、共感を抱いた。「あれって私の傷だったんだ」と思うことができたし、それを知ってる周りにとっても傷になってるかも、ということを考えられて良かった。最悪な環境とか人とか、そういうものは、本当にどこにでもあるし、いる。おかしくない?私がそれら全部をなくすことは多分難しいけれど、その状況に慣れて、無視・無関心になったり、他の人にも辛い思いを強いたりするようなことは絶対にしたくないと思った。もっと、励まし合えたり支え合える連帯に加わりたいと思う。責めたてる男たちの側で、何も言わないかわりに手も差し伸べなかった女性達(彼女らも家父長制の犠牲者ではあるけれど)には、なりたくないと強く思う。もうそろそろ、いい加減に、虐げられていく人を傍観して大きな力に加担するのはやめろと自分で自分に思っている。でも、それを力のない当人(マイノリティー等)に強いるのは酷だよな、とも思った。あの男たちは「じゃあお前が父親を止めろ!」とか言ってたけど、それは的外れもいいところ。下手すれば自分も虐待される(虐待のある環境で育つことそのものが精神的な虐待ではあるが)かもしれないのに、圧倒的に父親の方が物理的な力も強いのに、戦わせるのはおかしい。父親を止める力のある第三者、大人がやるべきこと。あいつら本当にムカつく。父親はもちろん最悪だけどお前らも心底最悪だからな。三姉妹と弟は時を経て、父親が老いた時やっと戦うことができたけど、そうでもないと無理だった。もし力があったとしても、社会的な力がそれを阻もうとするのは目に見えている。だから、本当に、この映画で立ち向かってくれて、勝って(と私は思っている)くれたのが、とても嬉しかったし、希望を感じた。
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