かなり悪いオヤジ

三姉妹のかなり悪いオヤジのレビュー・感想・評価

三姉妹(2020年製作の映画)
3.5
厳格な父親とパッとしない結婚生活を送っている3人姉妹+男兄弟。そんな登場人物の構成もさることながら、三女の仕事が劇作家という点においても本作は間違いなくチェーホフの同名劇作を意識している。イ・チャンドン監督『オアシス』に出演してブレイクした次女役のムン・ソリが製作もかねている本作は、プラス文字通りのシスターフッド的要素も加味しているフェミニズム映画である。邦画のように家族をむりやり再生させるわざとらしいエンディングにはなっていない演出にも好感がもてる1本だ。

三姉妹それぞれの問題を抱えた家庭生活が順繰りに展開される合間に、心に深い傷をおった幼少期の思い出がモノクロ映像でカットバックする構成。娘に邪険にされても笑ってごまかし謝ってばかり、癌にかかっていて周囲に金を無心している長女ヒソクはシングルマザー。夫は大学教授で自身も新興宗教の執事?を務める次女ミヨンは、姉妹のなかで唯一のセレブリティ。しかし夫は教え子に手を出している浮気野郎で家庭は崩壊寸前だ。三女ミオクはスーパー店主の後妻におさまったものの、家事一切をほっぽらかしてアルコールとスナック三昧、前妻の息子にはクレージー女とバカにされている。

三人姉妹の深層心理に刻まれた苦い記憶が、次第にモノクロ映像の中で明らかになっていく。なぜ長女が次女と三女にあんなに他人行儀だったのか?なぜ、浮気夫とその愛人に対して次女は鬼のように冷酷な態度をとったのか?義理の息子に手を上げた夫に、なぜアル中の三女が血相をかえて飛びかかったのか?幼少期のトラウマの解明と平行するように、現在の三姉妹が直面している問題の原因が次第に明らかにされる。

やがて姉妹と同じ理由で精神を病んだ弟が登場すると、その根本原因である“父”との決裂はいよいよ決定的に。夫の浮気が深刻化したミヨンが、新興宗教の集会でトランス状態となって“父よ”と泣き叫ぶシーンは迫力満点。家父長制がいまだに根強い韓国文化を嘆き悲しむ女性たちの叫びは、一体誰に向けられていたのだろう。誰にも届かないその慟哭は、子供たちの無邪気な遊び声と砂浜にうちよせる波音にまぎれて、やがて三姉妹の記憶からも消え去ってしまうのだろうか。「姉妹同士助け合わなくちゃ」ミヨンの台詞がむなしく響く。