このレビューはネタバレを含みます
暑さを殊更に強調する演出、例えばクローズアップで人物が映されるときに額を汗が滴っていたり、首筋をハンカチで拭う動きであったり、あるいはもっと直截に人物に台詞として喋らせたり、法廷で主人公が語る動機に繋がる布石としてのこのような見せ方が多かったが、太陽が眩しかったのが殺害の動機になったというのはあくまで偶然の噛み合いの話で、それに焦点を絞った演出を増やすのは、原作の要素を拾ってるとはいえ、些か原作にあった余白を狭めかねないとは感じた。
媒体も形式も異なるが、『ジャンヌ・ディエルマン』や『裸の島』のような、日常を幾度もなぞることで構築される閉塞的な世界の存在こそが主人公の動機に間接的に繋がったと俺は考えていて、そういう意味で、前半部は原作を忠実になぞってはいるのにニュアンスを掴めていないように思う。反面、後半の法廷劇へ物語が進んでからは、主人公の世間からはズレた側面を自然な形で浮き彫りとすることに成功していて、独房での教誨師とのダイアローグやモノローグも含めてかなりよくできていた。