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クライ・マッチョのmementooreのレビュー・感想・評価

クライ・マッチョ(2021年製作の映画)
4.9
最高によかった。声がガスガスになっているイーストウッド。基本的にはロードムービーで車と同時に馬も主題として出てくる。序盤のイーストウッドが運転する車と馬たちが並走するシーンで、そういえば馬も乗り物だったと思い直した。イーストウッドに誘拐を持ちかけるのがハワード・パルクという名前の男で、明らかにハワード・ホークスをもじっているんだなと思い、そうした西部劇の文脈をいろいろ持ち込んでいそうだった(劇中は80年代の設定だが、当時のメキシコは本当にあんな感じの西部劇感のある状況だったのだろうか、わからない)。
そうした馬の文脈がありつつ、カウボーイとして馬を手懐けたり訓練したり乗りこなしたりすることが、自分とは異質な他者に対する一つの姿勢であるような描写が続く。料理を振る舞ったり手話で聾唖の子供たちと会話したりスペイン語を勉強したり車やジュークボックスを修理したりする。具体的に現れる他者との交流を通して、ユーモラスに生活が組み立てられなおしていく。
シンエヴァの第3村のようなあの西部劇風の砂漠の街に2人が溶け込んでいく様はいささかユートピアとして幻想めいて見えなくもない。兎にも角にもコミュニティが重要なのだ、そしてそれを支えるのはさっきのような、カウボーイたることであったり厳格なクリスチャンであったりすること、それよりももっと広い何かなのだろうが、観念的には語らない。それがよかった。問題を根本的に解決しようとすると観念的になってしまい目の前の具体性が抜け落ちてしまう。そうではないやり方にも可能性があるんじゃないかという一つの賭けとしてこの映画はあると思った。ダンスシーンが2回も流れた時はさすがにイーストウッドの晩年の謳歌としか思えず苦笑した。
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