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レミニセンスのBrahmstのレビュー・感想・評価

レミニセンス(2021年製作の映画)
4.6
この映画は「執着」にまつわる素晴らしい物語である。それゆえに古典的で美しく、哀しい。

御多分に洩れず「ノーラン」の名にのせられたことがこの映画を知った契機だった。しかし、米国版予告編を字幕なしで見ると、日本版のようなノーラン単推しの雰囲気はなかった。そこで事前にノーラン的作品を求める考えを排することができたのは僥倖だった。

内容はファム・ファタールを探し求める主人公というオーソドックスな内容である。陰鬱ながらも幻想的な世界観と、役者の演技性が物語の味付けに大きな役割を果たしている。

戦略コンサルタントとして将来を嘱望され、ハーバード大では法学も修めながらも、映像作家の道を選択したリサ・ジョイ監督の、物語をわかりやすく描く技術の天才的な高さを感じた。

しかし、この映画の本当に素晴らしいところは、「執着」を描くことへの「執着心」だと思う。人間関係の希薄な現代においては気味が悪く感じるかもしれない程の執着だが、私には一笑に付すことができなかった。結局、金・愛・死生観といった様々なものごとに人は偏執するのだと思う。

更に、神話・プラトン哲学体系を知ることが映画に対する深い理解に繋がるのではないかと感じた。浅い知識でしか持たない身ではあるが、そもそも「レミニセンス」とは「イデアの想起」の意味であるし、『パイドン』には「知ることとは想起すること」のような意味が書かれていたと朧げに記憶している(間違いかもしれない)。これら以外の点も含め、上記の体系を考えると、舞台が水に沈んだ街であることや、各登場人物の言動について、途端に納得がいった。

神話哲学の件は穿った見方かもしれない。しかし、この「執着」は私の心を離さず、たびたび脳裏に本作の情景を「回想」させるのである。

賛否両論があり、アメリカでは興行的に失敗したと聞く本作だが、それはこのエンタメ大量消費社会において、新規性と論理性のみが求められていることの弊害なのかもしれない。もちろんその風潮は悪いことではない。しかし、なぜか物寂しく感じてしまうものである。

追記
この映画の軸は考えてみると一本にちゃんとまとまっているのだが、そのコンセプトが埋もれて見つけにくい。故に詰め込みすぎと言われるのだと思う。
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