Jun潤

とんびのJun潤のレビュー・感想・評価

とんび(2022年製作の映画)
3.7
2022.04.12

重松清原作×瀬々敬久監督×阿部寛×北村匠海。
2013年放送のTBS版連続ドラマを見て感動した覚えがありますが話もうろ覚えなので今回改めて鑑賞です。

広島県備後市で暮らす市川安男は町の名物男。
喧嘩っ早い大酒飲みで働き者、周りから嗜められながらも慕われていた。
そんな安男に子供が産まれた、名は旭。
みんなは言った、「とんびが鷹を産んだ。」と。
両親のいない父母の愛情を受け旭は育っていくが、母・美佐子は、安男の仕事場で積荷の落下から旭を助け、命を落とす。
それから、安男の不器用で精一杯の子育てが始まる。
旭は、父と、周囲の人の愛情を受け、大人になっていく。

こんなん観たら子供欲しくなりますやん…、お父さんになりたくなりますやん…。
まず最初に小言を言っておくと、予告ありきの展開というか、シングルファザーの子育てに物語を持っていくのが明け透けで、序盤の展開に違和感を覚えましたが、キャスト陣の演技に見事泣かされました。
阿部寛最強神話に新たなページが加わってしまった。

序盤の泣きシーンは和尚から旭に対する母がいないということ、そのせいで寒い背中を温めてくれる存在がいることの教え。
失ったものは取り戻せない、代わりはいないのかもしれない、だけどだからといって愛情は無くならない、世界に愛はある。

中盤の泣きシーンは生まれたことを悔やんでいた安男が、一度は拒絶してきた旭から、生きてくれと願われたことが、生き別れた父への産んでくれた感謝に繋がったこと。
自分が死ねば良かったのか、そう考え続けてきたであろう安男の後悔と、それを旭に言い渡されること、そして面と向かって生を肯定されること、それは生きてていいと自分で自分を許すことにも繋がる。

最後の泣きシーンは自分の人生は美佐子と旭だけだったのかと、自身の人生を振り返るけれど、前を向けば義娘と孫、成長した旭と、人生がさらに広がっていることを知る。
子が巣立てば親の人生は終わりじゃない、子が親となり、自分がその子の親である限り、人生は続いていく。

今作では殊更に親の強さと、弱さも同時に描かれていました。
子に見せる親の姿はでっかくて怖くて強い姿だけなのかもしれないけど、その裏には悩みや後悔など弱い姿があって、それがあるから親は子を強く導いていくことができる。
親も1人の人間であり、1人の人間だからこそ、親になれる。
それは安男だけじゃなく、みんな同じ、もちろん旭も。

個人的今作のMVPは安田顕ですね。
『下町ロケット』での積み重ねもありますが、阿部寛との悪友感も良かったですし、言っていなくても自ら憎まれ役を買って出ることが通じていること、旭を育てた周りの人達の象徴的存在であることを、一身で表現していました。

とんびは鷹を産まないし、鷹もとんびから生まれない。
とんびはとんびから生まれて、またとんびを産む。
ヒトもまたヒトから生まれ、ヒトがヒトを育て、またヒトを産む。
そうして、血と歴史は続いていく。

最近また顕著になってきた悪い邦画あるある、終われそうな場面でいつまで経っても終わらず尻すぼみというか尻が雑。
あと予告に一番いい場面を持ってくるから、本編にそれ以上の場面がない。
予告編のプロデューサーに見る目がありすぎるのかもしれませんね。
Jun潤

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