ぶみ

映画検閲のぶみのレビュー・感想・評価

映画検閲(2021年製作の映画)
3.0
現実が、映画の中に溶けていく。

プラノ・ベイリー=ボンド監督、ニアフ・アルガー主演によるイギリス製作のスリラー。
暴力シーンや性描写を売りにした過激な映画の事前検閲を行う主人公が、ある作品を検閲していたところ、出演者が幼い頃に行方不明となった妹に似ていたことから現実と虚構がわからなくなっていく姿を描く。
主人公となる検閲官イーニッド・ベインズをアルガーが演じているほか、ニコラス・バーンズ、ヴィンセント・フランクリン等が登場。
物語は、1980年代のイギリスを舞台としており、ホラー映画等の過激なシーンをカットしてレーティングを行う検閲官ベインズの姿が中心となるが、一応コンピュータも登場していたものの、若干暗めなオフィスに、自席での喫煙、固定電話にビデオテープと、その雰囲気はデジタル時代夜明け前のザ・80年代。
そんな中、容赦ない審査をするが故に「リトル・ミス・パーフェクト」と称されるベインズが、とある作品の中で行方不明となっている妹に似た女性を見つけたことをキッカケに、ベインズが見ているものや状況が、果たして夢か現か幻かわからなくなることとなり、この辺りの境界線の曖昧さは、なかなか上手い演出だったところ。
何より、過激な映画の検閲という仕事であることから、序盤から、80年代に濫造されたであろうB級ホラー作品のスラッシャーなシーンがぶつ切りで数多く挿入されるため、そこもまた本作品の見どころの一つ。
クルマ好きの視点からすると、ベインズの愛車が、かつて日本では日産がノックダウン生産していたフォルクスワーゲン・サンタナと思しき、全体的な線の細さがいかにも80年代なセダンだったのは見逃せないポイント。
その年代設定も含め、ビデオテープで鑑賞しているかのような画面サイズや、ざらついた質感が、80年代に数多くレンタルビデオ店に並んでいたB級ホラー作品の雰囲気を存分に醸し出しており、正直人間関係がよくわからないままではあったものの、サイコ・スリラーとして及第点であるとともに、その結末を考えると、邦題よりも、原題である『censor』の直訳となる『検閲官』とした方がしっくりきたのではと感じた一作。

腸を引っ張ったシーンは残した。
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