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Arc アークのみのネタバレレビュー・内容・結末

Arc アーク(2021年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

とにかく私が興味のあるテーマで、ずっと観たかった作品。
生と死について、生が意味を成すのは死があるからなのか。永遠に生きられるとして、それは赦されて、美しいものなのか。

合計特殊出生率が0.2を切る社会で、もうこれ以上人口は増やせないから人の命を延ばす。人が永く生きられるようになった社会で、自殺率は止まらない。
希望を描いているように見えて、同時にどうしようもない絶望も描いているように見えた。

すごく好きだったな。ずっと雰囲気が好きだった。あっという間にリナが歳をとった時間軸に移動するのに、リナの容貌が全く変わっていないから不思議な気分だったけど不老不死ってそういうことだよな、と思った。

演出がすごく好きだったな
夫であるアマネを亡くした後の40年間、リナは色のない世界を生きていたんだよね
でも老いることを選び、死を受け入れた後、世界には再び色が溢れた
白黒になった時、永く生きられるから日々の生活になにも彩りを感じられなくなった比喩なのかな、とも思ってたけど夫の死と併せたこっちの意味も含まれていそう。

印象に残ったのは、施術を希望する人達。
いい意味で普通の人。芝居感が無くて本当にそれを望んで来ている人達だった。
中でも覚えているのは、「帰ってこないのは、理解しているんです」って言った女の人。亡くなったその人が帰ってくるんじゃ無くて、その人の体が、その人のなによりもの象徴が側にある、それが救いになる、その人はもうどこにもいかない。
赤ん坊を連れてきた人が出てきた時にものすごく腑に落ちた。「できることならもう一度子宮に戻したい もう絶対離れたくない」って言葉が何よりもあの技術を求める人の心の内を表してたんだと思った

夫であるアマネの葬式の後、アマネの手を抱きしめるシーンが何故かすごく好きだし、泣く気持ちが理解できた。
結婚指輪をはめた手、自分と手を繋いだ手。恋人じゃ無くても、私自身の大切な人がもしそうなったら、という想像をしたら、泣きそうだった。

リナがした事は、決して許されない事。エマは『自由に生きなさい、罠にかからないように』と言っていたけど。
罠っていうのは、自分が信じる事ごと自分を変えられてしまうことやものに捕まってしまうことを意味してるのかな、と思った。

あの男の人が息子だって、男の人はリナが
母親だって、どうやって気づいたんだろうな、と思った。あのスケッチブックの絵は、リナが病院から抜け出して行った海岸だから、リナと息子にとっての大切な海岸だったのかな。
息子は息子で生きてきた軌跡があるという事、それによってリナが変わったこと。90年以上生きてきてもやっぱりずっとそれが引っかかっていたからなんだろうな
息子が年老いているからこそ、語りやリナを諭す言葉に説得力や重みがあって、リナの方が年上なのに、若くて妄動していた若い頃と変わっていないように見える。容姿が変わらないと、そういう印象も抱くんだなぁと思った。

美しい映画だった。

【印象に残ったセリフ】

「生の対極に死があるんじゃない 生きることの中に死があるの」

「私はエマのように、強く生きられない リナ、本当はあなたも」

「何に乾杯しましょうか」

「今日のあんたは昨日のあんたとは違う誰かだ」

「あんたが変わらなくても世界は変わる」
み