MrFahrenheit

カビリアの夜のMrFahrenheitのレビュー・感想・評価

カビリアの夜(1957年製作の映画)
5.0
再視聴。好きな映画はそれなりにあるが、タイトルを聞いただけで条件反射で泣きそうになるほど心を揺さぶられる映画は本当に少ない。

ジュリエッタ・マシーナ演じる主人公の娼婦カビリア。この映画には、同じく娼婦が主人公の「プリティ ウーマン」のリチャード・ギアは現れないし、「女と男のいる舗道」の娼婦ナナのように殺されるわけでもない。カビリアは人を信じ、期待し、裏切られながら生きていく。

カビリアでなくても、私たちの現実にスーパーヒーローが現れて問題を一気に解決してくれることはない。信じた人に裏切られることもある。ダメだと分かっている相手に期待してしまうことだってある。神や仏に縋りたくなることもあれば、「神や仏なんていない」と泣き叫びたくなることもある。そして悲しいことは続いたりもする。
散々な目にあっても死ぬわけにもいかず、なんとか生きていく。
この映画は悲惨な娼婦の話だが、私たちが時折経験する嫌な現実でもあると思う。

生きる苦しさ、救いのなさを身も蓋もなく描きながら、ユーモアを混ぜつつ、それでも生きることの尊さと愛を訴える。

「8 1/2」への繋がりを感じさせるラストシーンでは、ジュリエッタ・マシーナが目線でこちらへ語りかける。頭で考えるよりも先に涙で動けなくなる。こういう映画に出会うために自分は映画を見ているのだと思う。