監督・脚本は、フラン・クランツ。
2021年に公開されたドラマ映画です。
※アラスジを最後まで。その後に感想を。⚠️
【主な登場人物】⛰️⛪
[アンソニー]眼鏡の職員。
[エヴァン]被害者。
[ゲイル]被害者の母。
[ケンドラ]幹事。
[ジェイ]被害者の父。
[ジュディ]赤毛の職員。
[ヘイデン]加害者。
[リチャード]加害者の父。
[リンダ]加害者の母。
【概要からアラスジへ】🏫📚
クランツ監督は、1981年生まれ。カリフォルニア州出身の男性。
テレビを中心とした俳優で、
今回が長編映画監督デビュー作です。
最初は監督志望だったらしいのですが、演技にのめり込んでいった影響で、デビューが遅くなったのだとか。
脇役で重宝がられるイケメンって感じです。
ガス欠。
過去作掘り続けるも、どれもしっくりこず。
AIに聞いたら出てきた作品。
4人がテーブルで向かいあって話すだけのシンプルな内容。低予算会話劇で「なんじゃこりゃ」と思うが、じょじょに填まりはじめる。
カマラ・ハリスが大統領選に立候補する前に『ロング・ショット』紹介してくれたのもAIだったし、
やっぱりわたしのこと宇宙1理解してくれてるわ!
1幕の終盤に「あれ、これ町山さんが紹介した映画では?」と思い出す。
(なぜ見逃したんだぁ、過去のわたし)
⚪〈序盤〉☕🥯
冬の米国、北西部にある山岳地帯。プロテスタント聖公会の教会。
教会側の担当者、ジュディと助手のアンソニー。今回の会合をセッティングした世話役のケンドラが合流した。
建物の奥にある談話室は、窓の多い明るくて白い壁の部屋。
テーブルとイス。戸棚にはティッシュ。コンソールテーブルには、コーヒーとベーグルが準備してある。
教会に招かれたのはジェイとゲイルと、リチャードとリンダ。
4人の熟年夫婦は、6年前に起きた銃乱射事件の被害者と加害者の両親である。
部屋に4人だけが残り、丸いテーブルを囲んでの話し合いに。
リンダからフラワーアレンジメントのプレゼント。
2度目の顔合わせであり、写真を見せながら、家族の近況を報告する。ゲイルの下の娘は精神も回復傾向にあり、大学に行く予定。リンダの上の息子はボルチモアで暮らしている。
亡くなったエヴァンの成長過程を3才での押し車や、12才のリトルリーグで。最後のクリスマスも。
ヘイデンの思い出の品は、小学生の頃につくった瓶デコレーション。
ゲイルは、せっかくの機会を有効に使いたいのか、ヘイデンがどんな子だったか知りたがる。
「私の息子を殺したから」
⚪〈中盤〉💣🔫
ヘイデンは内向的な子だった。他人との遊び方が分からない様子で。
「13才でネットをはじめてゲームに填まったでしょ?」
つめよる妻を制して、ジェイは「事件が起きた理由が知りたいんだ」
転居。引っ越しによる環境の変化が原因だったかもしれない。
利便性は高いが、狭い区画に家が密集して自由がなかった。以前は自然が豊かで裏庭があったので、新しい環境は息子には辛かったかもしれない。
7年生(中1)で酷い苛めにあい。オンラインゲームにのめり込むように。それでも、学校の成績は良好だったので、順調だと錯覚して、鬱の兆しを見逃した。
精神科には何度か通わせたが、本人が嫌がった。
高校では仲のいい友達グループができた。
「射撃場で銃を撃ち、朝から晩までコール・オブ・デューティで遊ぶような仲間だ」
ミラーニューロン(鏡のように反応する脳の神経細胞。共感力に影響していると言われている)についての質問に対して、
息子の共感力は充分な結果を示した。サイコパスではなく、苦しんでいた。
「転居でもなければ学校でもない。彼自身の問題だ」
最初からじゃない、貴方の言っていることは信じない。
「兆候が見えなくたって、助けるのが親の義務よ」
「高校ではパイプ爆弾の制作で警察に逮捕されている」
完成品を爆発させたかったようで、以前の家があった森で試していた。
息子とはよく話をしていたつもりだったが、騙すために真実を隠していたのだと後で気づいた。
期待が大きすぎたのだと反省したよ。負担をかけないよう、好きにさせた……あの子を見放したんだ。
「……貴方がたや、我々すべての人生を破滅させた」
批判はうんざりするほど受けてきたよ。それで声明もだした。
「思いと、祈りですか」とジェイは少し馬鹿にしたような態度で笑った。
騒ぎが起きてテレビをつけると、上空から学校が映っていた。
友人のアレックスの家に銃があり、それを息子が持ち出したのを知ったのは事件が起きた後だ。
黒尽くめの男たちが大勢現れて家宅捜索され、私たち夫婦は引き離されて外で待っていた。
私が自殺しないように監視している若い警官に聞いたの、息子は死んだのかって。そうです、今はそれしか言えません。彼はそう言ったわ。
私は人殺しを育てた。私も殺してほしかった。
葬式に親戚は姿を現さず、ごく身近な友人だけで行った。
あまりに責められて、経済的にも困窮し、悲しむどころじゃなかった。
息子の攻撃は無差別で、誰も狙っていない。知らない相手だ。
「やめろ、同じ学校の生徒だぞ。
息子は苦しんだ。それをアンタの子供は眺めてたんだ。
息子の教室に爆弾を投げ込み、銃を撃ち、30秒近くそこにいた。全員を殺せたが、撃つのをやめて眺めていた。
その6分後に命を奪いにもどってきた。その間、息子は命があり、逃げようとしていた……血痕が床に残っている。酷い傷をおって、這いつくばった後が」
⚪〈終盤〉🫱🏻🫲🏻🫂
ヘイデンは図書室で警官に頭を撃たれて死亡している。
世間は10人の死を悼み、我々は11人に祈りをささげた。
「遺族の誰かが言っていた。貴方がたは一生孤立する。それが裁きであるかのように」
誹謗中傷。慰め。いまでも多くのメールが寄せられますが、それは事件当時の息子を思い出させます。
それから息子が本当はどんな子だったのか、記憶を辿るのです。それが私の役割だから。
……あの子はみんなの人生を破滅させた。
あの子が生まれなければ、世界はもっと幸せだった。
「世界の価値観を変えたい。彼らの人生に意味があってほしいから」
お願いです、エヴァンの話を聞かせてください。
「運動神経が抜群で、やんちゃな子だった。いつも公園でアメフトをして泥だらけになるまで遊んで、お風呂場も泥まみれで。私は怒ったけど、ママは言ったよね、最高の選手は1番汚いって。私は笑って、あの子を抱きしめていた。土と草と汗の匂い。溢れる命を感じたわ」
世界を変えられなくたって、それが彼の生きた意味よ。
「あの子がいなくて辛い」
「私は心の底から、貴方たちに罰を受けてほしかった。私達の中でわだかまりが消えるのが怖い。貴方たちを許せば、あの子を失う気がして……でも、会いたかった」
ゲイルは夫ジェイの手を握り、決心したように「おふたりと、ヘイデンをゆるします。彼は道に迷っていた」と告げた。
「夜も眠れず、いまのままでは生きられない。お互いの生活を見つめ直したい」
妻に手を握られて、何度も頷くジェイは涙ぐんでいた。
「罪をゆるして、愛を取り戻せば、きっとあの子にまた会える」
4人は手を取り合って輪をつくり、瞼を閉じて祈りをささげた。
11人の子供たちがあの世で心穏やかに過ごせているように願って。
会合が終わり、残ったジェイたちがお世話になった教会の職員に感謝の気持ちを伝えていると、加害者の母リンダが戻ってきて部屋の前に立っていた。
あの子はまだ16才で、家族の会話はなくなっていた。夕食も食べずに部屋のパソコンで遊んでいるから、「まともになれないんだったら、せめて勉強でもしなさい」と怒鳴ったの。
あの子に「勉強なんかしたくない」と怒鳴り返されて。
「出ていけ、殴るぞ! ぶちのめしてやる」って。
私は恐ろしくて自分の部屋に戻って鍵を閉めたわ。
……あの時、好きにさせてあげればよかった。「いいわ、私を殴りなさい。それで貴方の気がすむのなら。そうすれば、きっとあの子の本当の」
ゲイルは思わずリンダを抱きしめていた。
「もういいのよ。大丈夫だから」
【映画を振り返って】💐🤍
[銃乱射事件]
映画が撮影された2019年の米国での数が417件。
2023年が654件で、毎年増加傾向にある。
立場が入れ替わる。
犯人の母は申し訳なくて、へりくだり。子供を殺された親は憎しみで攻撃的。
互いに影響しあい、どちらが加害者側なのか分からなくなる。事件のもたらす死は一瞬で訪れるが、残された家族が味わう苦痛は何年もつづく。
辛い思いをさせたくない、の感情が少しでも芽生えたら、家族の顔を思い出して踏みとどまってほしい。
FPSが銃犯罪を助長する。
これも頭が痛くなる理論。
銃の使用に興味がある人がFPSに集まるだけ。
ゲームをやらない人の理屈。
実際は、マウスとキーボードを使ったEスポーツ。
協調性と根性が求められる団体競技であり。
実際の操作感覚を再現したシミュレーターとは似て非なるもの。
FPSが射撃の技術を向上させるわけではない。
テクスチャーとして、人と銃が貼りつけてあるだけで、『スプラトゥーン』のように、ペンキを飛ばしても成立する。
FPSと銃犯罪に因果関係は存在しない。
学校で友達ができなくても、オンラインでつくればいい。
対立させてオンを悪く言うのは的外れ。共存するものだし、むしろ救いであり、部屋で誰とも会わないより、子供たちの可能性はずっと広がる。
[修復的司法]🧑🤝🧑
メンタルヘルス目的で、
加害者の親と、被害者の親が会って話をする。
会話でぶつかりあい、わだかまりを解いてゆく流れが描かれている。
グループ活動では、飲みニケーションで基本。
(喫茶店でもいいけどね)
不安でも、不満でも、要望でも、
言いたいこと吐き出させれば、わだかまりが解けて、関係性は前進する。
極論いえば、喧嘩すると絆が深まって、仲がよくなる。
(少年漫画ヤンキー理論)
わたしの場合は関係がこじれないので、セッティングしてもらう必要がない。自分から直接本人に会いに行き、違う話題から入り、問題解決の方向にやんわり進められる……。
重要なのは信頼関係を築く事であり、本題は後回しにする。
年齢的にも、性格的にも仲介役。劇中の教会職員のような立場に。
会合では聞き役に徹し、互いが言い分を理解できれば及第点。
・執着心がない。
・じょじょにでも相手を受け入れられる。
の場合は、関係の修復や構築が可能なのだが、
「あいつ絶対ゆるさねえ」「話が合わない」のような“執着心が強いタイプ” だと口を聞かなくなるなど、平行線で終わる可能性があるので、飲み会に過剰な期待をしない。
(根暗で神経質でコミュ障だと手がかかり、進展も遅い)
「お前のママじゃない」
幹事との信頼度ばかりが上がり、仕事量が増え「なんだかなぁ」と感じる場合も多いが、
乗り出した以上は途中でパイプ役をおりない覚悟が求められる。
現状の認識だと、加害者と被害者の親同士が向かい合って救われる、には懐疑的。
加害者のパパもっと怖い人なのでは? とは思うけど、フィクションだし、センシティブな問題なので、常識人が集まるのは仕方ないか。
登場人物は、どっしりとして、時々感極まって声を張り上げる人しか出てこない。
監督が取材した内容の読み上げ。それを各キャラに振り分けるのに終始しているが、ちゃんと向かい合うと、一応性格が設定されているのが分かる。
ゲイル。被害者の母。単刀直入で攻撃的。好奇心が強い。加害者への怒りが継続している。
ジェイ。被害者の父。前半は妻を抑える役だが、2幕の終わりで我慢していた怒りを爆発させる。
リチャード。加害者の父。冷静で機械のよう。とくに読み上げ色が強い。家族を守るために必要な要素。メンタルが強い。
リンダ。加害者の母。訴えてくる。弱っている。女性的。
実際に会ったら、不条理、言葉が通じない。恨んでいる相手の知識が深まり、怒りが増大しそう。
ただ、相手の親族と話をしよう、と会合に現れるような人だったら、その時点でふるいにかけられている。すでに話が通じる人なのかもしれない。
結局のところ、よくも悪くも当人の社会性に依存している。
監督が取材していくうちに「これだ」と修復的司法の形で映画化しよう、と考えた独創性は高く評価したい。
🏈子供が先に死ぬ想像。
取材しても、親族に迷惑がかかるのでドキュメンタリーの形では公開できない。
そのためにフィクションで構築する。
複数の人の恨みや苦しみが集積しているので、どこまでも暗い。
怨念の壺のようにまがまがしい。
子供の死を乗り越えて前に進む。
監督は4人分を演じて映画の基になる動画を撮影したらしい。俳優ならでは。
制作中はPCの前でずっと泣いていた、と言うから「自己陶酔だな」と思っていたけど、
終盤の辛さといったら涙なしでは語れない。
我が子が自分の一部のような人で、頑固。
ずっと同じ場所にとどまり、恨みごとにどっぷり浸かっているタイプの人が、
前に進み、自分たちの人生を取り戻す決心をしたのかと思うと泣ける。
それがあの世にいる子供を一番安心させられる方法だと判断したから。
犯罪者の気持ちも、被害者の気持ちも自分に起きた出来事のように感情移入する人らしい、個性の活かし方。
「一体化」を苦悩と解放以外の方法。癒しの力として表現した慈愛の心に驚かされた。
もう大量殺人なんて縁遠い存在に生まれ変われるよう、魂が救済される日を願って。