かなり悪いオヤジ

秘密の森の、その向こうのかなり悪いオヤジのレビュー・感想・評価

秘密の森の、その向こう(2021年製作の映画)
3.6
フランス新進気鋭のフェミニズム監督セリーヌ・シアマだけに、《祖母、母、娘》の女三代に渡る喪失と癒しの物語と聞いて、またまたマチズモをねちっこく口撃するいやらしい作品を撮ったのかと勝手に予測したのだがさにあらず。宮崎駿の『となりのトトロ』や細田守の『未来のミライ』を彷彿とさせるとてもファンタスティックな1本である。原題の『Petite Maman』とは、主人公のネリー8才が森の中で出会う、8才の頃のママン=マリオンのことを指していると思われるのだが...

何せ一卵性双生児がキャスティングされているせいでどちらがどちらだかハッキリ判別できなくなるシーンが多数出現する。祖母ネリーに「サヨナラ」を言えなかったことが気になって、娘ネリーを旦那と一緒に遺品整理中の祖母宅に置いて先に帰ってしまった母マリオン。これらの演出から察するに(おそらく両親の離婚が原因で)「サヨナラ」を言えない病にかかっていたマリオンを癒すため、未来から“Petite Maman”ことネリーがやってきて孤独なマリオン(8才)のお友達になってあげたお話なのではないだろうか。

祖母ネリーが死の直前までお世話になっていた施設のお婆さんたちに孫のネリーが「サヨナラ」を言って回るシーンが、後々の重要な伏線になっているような気がするのだ。マリオンの夫かつネリーのお父ちゃんは、人畜無害の優しい男として描かれているためフェミニズム色は(『燃ゆる女の肖像』ほど)さして強くはない。が、その父ちゃんの立派なひげをむりくり剃らせるシーンなどから、シアマ監督のマチズモに反対する姿勢をそこはかとなく感じとれるのである。

祖母ネリーの足の病気を遺伝的に引き継いだマリオンが手術を受けるために、生前の祖母とともに病院へと向かう。母マリオンが祖母ネリーにどうしても告げることができなかった「サヨナラ」を、母マリオンの代わりにネリーが告げてあげるのである。車の運転中でも、親子というかまるで女友達同士のように仲のよいマリオンと娘ネリー。祖母ネリーゆずりで料理の腕はかなりイマイチだけれど、ネリーの手の香りが大好きだった2人。未来からきた精霊ネリーに導かれ娘の元に再び戻ってきたマリオンは、孤独を引きずっている過去そして現在の自分の姿を見つめ直したスクルージだったのかもしれない。