豚肉丸

アンラッキー・セックス またはイカれたポルノの豚肉丸のレビュー・感想・評価

4.6
夫とのプライベートのセックス動画が流失してしまった女性教師が、事情説明のための保護者会を開くお話

とんでもなく独特な構成でビビると同時に、日本ではポルノの場面に検閲をかけた「自己検閲版」バージョンしか公開できなかったこともまた一種の皮肉と化しているのが面白い。この世の欺瞞や弱者の犠牲によって形作られた人間の歴史、そしてルーマニアの歴史とポルノに対する人々の意識など何もかもを皮肉った冷笑系映画であった...

本作は3部構成の映画なのだが、そのチャプターの内容がかなり独特。
1話では女性教師が街を歩く姿が映され、2話ではゴダールらしくアーカイブ映像のコラージュで物事を語る。3話目でようやく映画らしくなるのだが、女性教師が街中を歩くだけの映像と映像のコラージュで映画の半分以上を使う構成には非常に驚いた...が、3話目の内容を踏まえると確かに1話目と2話目の内容が必要となっているのが面白い。
街を歩くだけの映像の中には女性に対する男性の意識や人々の負の意識が映されており、映像のコラージュによって弱者の犠牲によって形成されたルーマニア社会が語られる。そして、それらの内容を踏まえた上で保護者会の場面へと移行する。

保護者会はまさに人間の負の部分を煮詰めたような場であった。あることないこと誇張され、先入観によって批判され、議論にならない状態で女性教師への糾弾が加速し、いつの間にか話はポルノ動画の流出からルーマニアの歴史の話に移り変わっていく。
軍人がホロコースト否定論者だったりと最早コメディにしか思えないぐらい誇張された展開が進んでいくのだが、一方で我々が普段から目にするインターネットでの政治議論もこの保護者会で行われている議論と全く変わらないものでなのじゃないかと思わされる。ポルノは悪影響論、子供の行動を全て教師や学校の責任にする親と言ったような身近な問題から始まり、その女性が学校でどのようなことを教えていたのか、女性はリベラル左翼なのか、と言ったような個人攻撃に展開されるのは現実と全く変わらない。
進学校の保護者会は現代の政治議論を象徴しているように思えた。

と同時に、「夫婦の愛の営みを撮影した動画」がポルノと扱われ、馬鹿みたいな規制をかけられるバージョンでしか公開できない日本もまた...うん...
豚肉丸

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