ユカートマン

さよなら、ベルリン またはファビアンの選択についてのユカートマンのレビュー・感想・評価

4.0
児童小説家のエーリッヒ・ケストナーが生涯で唯一大人向けに書いた小説の実写化。舞台は第一次世界大戦敗戦による貧困に喘ぐ、退廃的ながらも享楽的で性的に倒錯した人たちが集まるパーティータウンの顔も持つ、ワイマール共和国の首都ベルリン。この時代のベルリンはとてもアヴァンギャルドな街として知られ(現在もそうですが)、大学のドイツ文学の授業で読んだ『人工シルクの女の子』というフラッパー(今のフェミニストのような、道徳などに縛られず自由に生きていた女性)を描いた小説が大好きなので、その小説の空気感を重ねながら鑑賞。3時間という尺は長く感じたが、冒頭の現代のベルリンの駅のホームから1930年代のベルリンにタイムスリップするシーンや、不安定な当時の人たちの心情のような手ぶれ、フィルムの粒子の粗さなどとにかく映像が洗練されている。ラブーデと遊ぶシーンで湖で泳いだり、猟銃?で遊んだり、ラストに続く伏線もたくさん貼られてる。ナチス台頭前夜であることを示唆する箇所はいくつかあるものの、反ファシズムの政治的メッセージを主人公に訴えさせるわけでもなく、主人公はその日を生きるために必死なノンポリで、当時のドイツ人たちの生活の苦しさやその中にある光を切り取った記録映画のような作品だ。
職安の列に並ぶ帰還兵が口にする「戦争 インフレ 失業者 人は痩せていく 体だけでなく頭もだ」というセリフが特に良かった。ファビアンの友人のラブーデはなぜボンボンなのに共産主義者になったのか?など説明不足も感じたが、最後のヴェッカリンの取った行動は、もう一度論文を提出するシーンを見返したところ、あ〜こいつナチだったんだなと納得。
英語タイトルの"going to the dogs"は、堕落する、落ちぶれるという意味のイディオムであることを初めて知った。第三次世界大戦前の2023年のようにも感じられて、無職で平日の昼間から3時間ものの大作を鑑賞するカナヅチの自分はまさにファビアンでした。
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