とぅー

明け方の若者たちのとぅーのレビュー・感想・評価

明け方の若者たち(2021年製作の映画)
4.0
2022.01.04

どんな結末でも面食らわないように、新年早々意気込んで映画館に足を運んだ。良い意味で期待を裏切られた感じだった。
歳を取っても青春したいけど、やっぱり20歳前後の青春=人生のマジックアワーには敵わないんだよなーとつくづく感じる。30代半ばでこの作品を観てしまったもんなら、当時のことを思い出してしばらく戻ってこれなくなりそう。
大人の雰囲気で余裕のある彼女と服装がダサくて頼りなさの残る僕が沼のような5年間を過ごすわけだけど、最初からどこか彼女が主導権を握っているような感じはした。彼女が冒頭の演劇を勝ち組飲み会の延長線にあると分析し、"僕"がフラグを回収してしまう構図が皮肉であり、彼女が一枚上手であることを助長する要因のひとつにもなっている。随所にモテる女の振る舞いを感じるのに、彼女はそれを嫌味なく自然にやってしまうタイプの女だから誰でも好きになってしまいそう。結末を知った上だとやっぱりあざといけど。
仕事も恋愛もこんなはずじゃなかったと、現実を真っ向から見せつけられた"僕"に自分を重ねて、言いようのない気持ちに胸を苛まれる人は多いのではないだろうか。でも、不思議なことにこの作品を見るとなんか前向きな気持ちになれると思う。

「実質2時間しか寝てない。ジャストアイデアだけど。」
あえてはっきり聞こえるようにしているあたり自称意識高い系大学生を存分に煽っていて、パンチ効いていた。
「なんだっていつかは終わるよ。残り少ない青春を楽しもうよ。」
これが単純に学生の終わりを意味しているのではなく、2人の関係の終わりを意味しているのは想像がついたが、観賞後に僕の表情を思い返すと背負ってるものが違いすぎて、切なさが込み上げてきた。
「このまま死んでもいい。」
これって軽々しく出た言葉なんかじゃなくて、本気でそう感じているからこそ意識せず口に出てしまったくらいに重みのある言葉だったと思う。これ以上何もいらないくらい幸せを感じる瞬間って実際にあるんじゃないかな。ここのくだりは村上春樹『海辺のカフカ』の一節のようだった。

カツセマサヒコ インタビュー記事
https://type.jp/st/feature/6951/
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