mさん

エッシャー通りの赤いポストのmさんのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

「少しでも踏み出せば、みんな人生の主役なんだ」
そんなメッセージがビシバシ伝わるエネルギッシュな作品。パワーがもう凄かった。ただわめいてるだけじゃないんです。51通りのぶっ飛びが炸裂してた。今作みたいにスポットが当たらない人達がメインになる映画が好き。エキストラと主役という構図が自分の人生にも当てはまってくるから凄い刺さる。人生のエキストラでいたくないのなら踏み出せ。壊せ。もっともっと!

この映画は主役とエキストラを等価に描いてて、一貫してるのはみんな狂ってて人としてあんまり良くないってこと。切子は受かるために嘘をつくし、両親は切子のことしか見えてなくてオーディションのことはどうでもいいし、あの小林監督でさえカタコに会いたいから映画を撮るっていうヤツだし、ラストの幼児退行は1番ヤバいし、みんな狂ってる。だけど自信過剰な有名女優も、癒着まみれで選ばれた女優もみんな狂ってるから、エキストラも主演を演じる人たちも同じ人間で等しく狂っててダメな人たちだって思わされる。だからエキストラか主演かに違いはないってことがわかる。はじめはあからさまに権力者を悪者に描き過ぎてる気がしたけど、最後の小林監督の吹っ飛び方を見てみんな狂ってると思ったから偏った描かれ方じゃないなって思えた。

とにかく大切なのは行動すること。あの男に笑われても、落ちてダメでも行動することで人生の主役になっていくというポジティブなメッセージがよかった。実際キャラクターはみんな主役を願ってオーディションに向かうけど、この映画の終盤までは殆どオーディションの内容のみで映画が作られてるから、実質もうあなたはこの映画に記憶に残るキャラとして間違いなく出れてるんだよ!よかったね!って思えた。最後の商店街のシーンはそれぞれの人がそれぞれの人とつながって、交流する様子がワンカットで描かれてて凄いよかった。ここで終わればハッピーエンドでいい感じで終わるんだけど、流石園子温さん。全部ぶち壊しにかかるあのラスト。多分「行動すれば人生の主役になれる」っていうメッセージの極地を見せたかったのかな。オーディションに行くだけでも行動だけど、あの瞬間主役を奪うって行動を起こすと更に凄いことになるっていうことを表現してるのかなって思った。あの安子の行動でみんな爆発してて面白かった。武藤さんはなぜか叫んでるし、夫は結婚しようって言って断られるし、二股を助監督も公表するし、みんな何かしらあれがきっかけでアクションを起こしてその瞬間さっきの一連のワンカットとは違ってカットが割られてその人にフォーカスするカット割りになるのが面白かった。行動したキャラがその瞬間主役になるのが面白かった。映画仮面はメチャクチャになったけど…まあこれだけのキャラを輝かせつつ収束させることは無理だし仕方がないのかなとも思った。多分園子温監督のスタンスとしては「エキストラで映画はメチャクチャになったけど、そもそも君たちはエキストラなんていてもいなくても同じだと思ってたよね?甘くみてると痛い目にあうよ」というスタンスなのかなとも思った。

140分越えだけど長いとは思わなかった。長いなーって思う一歩手前であの手この手で興味を持続させる。例えばオーディションに向かう→オーディションで1セットの下りが何回も来て3回目くらいから疲れてくるけど、その瞬間監督目線の話になって興味がつづく。またオーディションに戻ると今までのオーディションの見せ方じゃ満足できなくなってる。そう思ってるとカタコ視点になって色々な人が同じセリフを言うシーンがババババっと流れて少し変わった編集のアプローチが入るし、こういう飽きさせない工夫がすごい。

メタ的なのも好き。劇中バカにされてるエキストラが実際にこの映画ではメインで描かれてるのが素敵だった。オーディションとか今作の映画の時のオーディションから結構イメージして脚本書いてるのかな、もしかしたら映像をそのまま使ったりしてるのかなと思ったし、ラストの全員集合のシーンは一部園子温監督の声が入ってたし、この映画はフィクションだけど、どこか現実と繋がっているんだって思てよかった。
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