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アミューズメント・パークのambiorixのレビュー・感想・評価

アミューズメント・パーク(1973年製作の映画)
3.5
本作『アミューズメント・パーク』は、『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』や『ゾンビ』などなど、ゾンビ映画の大家として知られるジョージ・A・ロメロが1973年に製作したものの、内容があまりにも過激すぎ、かつ悪趣味すぎるという理由からあえなくお蔵入りしてしまった経緯を持ついわく付きの作品。ほぼ半世紀近い年月の経った2017年にフィルムが発掘され、ようやく日の目を見ました(本邦初公開は2021年)。今回アマビデの100円セールワゴンにラインナップされていたのでためしに見てみることに。
あらすじは説明不要でしょう。なにせ予告編のド頭に出てくる「遊園地で老人が罵られ、大変な目にあう」の文言以上のことは何も起こらないのだから(笑)。入園してソッコーで金品を巻き上げられるわゴーカートに乗ったら若者から因縁をつけられるわ食事のテーブルでは店員からぞんざいな扱いを受けるわ事あるごとにリハビリ施設にぶち込まれそうになるわ果てはチンピラ連中から直接的な暴力を振るわれるわで、老人がひたすら悲惨な目に遭いまくる。製作依頼主のルーテル教会は「お年寄りを大事にしましょうねというメッセージを込めた教育映画を作ってください」といってロメロにオーダーをしたそうなのですが、それでこんな代物が返ってきたんじゃあ誰でもブチ切れるわよ。
個人的には「社会批評性」と「ブラックすぎるユーモア」の融合こそがロメロ映画最大の特徴だと思ってますが、冒頭にあげた2作でいうと、狭い一軒家に集った小集団を黒人と白人の対立構図に見立てて語り、最後は黒人がギャグみたいな殺され方をして終わる『ナイト〜』なんかまさにそうだし、死してなおスーパーマーケットに群がる民衆たちを戯画化することによって資本主義の虚しさを看破してみせた『ゾンビ』も秀逸だった。そして『アミューズメント・パーク』に関してもやっぱりこれはロメロの映画以外の何物でもないと思うわけですけど、それじゃあここで彼が描きたかったものは一体なんなのかといえば、本編をひと目見てわかるとおり「老人に不寛容な社会」でしょう。遊園地を実社会の縮図として描いている。もうちょい進んで「有用でないとジャッジされた人間を容赦なく切り捨てていく社会」と言い換えてもいいかもしれません。こう考えるとめちゃめちゃアクチュアルな映画じゃないですか。至れり尽くせりの歓待を受けながら豪勢なメシを食う富裕層の脇でもって貧乏人たちが一つの皿を巡って醜く争うあそこの場面を想起してみよう。ガルデル・ガステル=ウルティアの『プラットフォーム』に描かれるような、(怒りの矛先が強者には向かわず)弱者同士で足を引っ張り合う地獄絵図。ここは当時の観客よりもむしろ現代の観客の方がイメージしやすいと思う。遊園地全体が、弱者たちからなけなしの金を搾り取ることに特化した収奪のシステムになっている、というのもなんだか示唆的。
ようするにロメロ監督は、老人や社会的弱者に厳しすぎる空間をカリカチュアして描くことで「そういう社会になってしまわないようにみんなで気をつけようね」と言っておるわけです(いやさ、それに関しては完全に手遅れなのだけれども…)。そういう意味で言えば、これは紛れもない教育映画なのです。ただし、『地獄の黙示録』や『アメリカン・スナイパー』のようなよくできた戦争映画が戦争をあまりにもリアルで苛烈なものとして描いているがゆえに、反戦映画と好戦映画のどちらにも解釈できてしまうのと同じで、本作もその辺の線引きが非常に難しい。この作品を見て「単なる老人虐待映画だ」と受け取り、お蔵入りを決めてしまったルーテル教会の気持ちもそれはそれでわかる気がした。
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