Jun潤

ヴォイジャーのJun潤のレビュー・感想・評価

ヴォイジャー(2021年製作の映画)
3.3
2022.03.25

劇場のポスターを見て気になった作品。
以前見た『パッセンジャー』にスリラー要素を足した感じがしたのも気になりましたね。

地球温暖化による飢饉を受け、人類は地球に代わる新たな星を探していた。
2063年、新たな星を発見、到着まで86年かかる星に向けて、30人の子ども達を乗組員とし、彼らの孫の世代に人類の未来を託した。
不測の事態に備え、子ども達を見守るため、教官のリチャードが同行する。
航行開始から10年、成長した子ども達は、徐々に自らの環境に疑問を持ち始める。
食後に飲む“ブルー”に興奮と性欲を抑える薬が含まれていることを知ったクリストファーとザックは、リチャードに反発してブルーの服用を止める。
そして本能に駆られ始める少年たち。
そんなある時、通信機のトラブルが発生しリチャードとクリストファーが船外の任務に出る。
そこで原因不明のトラブルが発生、リチャードの宇宙服が破損し、彼は帰らぬ人となる。
大人の管理がなくなり、それでも自分達の中から投票で次の指導者をクリストファーと決める少年たち。
しかし、全員がブルーを飲まなくなった途端、本能的な行動が増え、船内は統率が効かなくなる。
そして理性で行動しようとするクリストファー派と本能で行動しようとするザック派に二分し、ついには殺し合いにまで発展する。
果たして、少年たち、そして人類の未来の行方はー。

未熟な少年たちによる、宇宙船を舞台にしたワンシチュエーションスリラー 。
これはなかなか、難しいところがありますね。
SF世界観でありながら、30人の子ども達に託すにはあまりに重すぎる人類の未来という使命、人間の本質は理性か本能かという命題、宇宙船内を舞台にした殺し合いと、要素がモリモリになっていた印象です。

しかしそれでも各要素が強く主張していて、噛み応えのある構成だったのですが、どうしても一点、SF考証に関する点だけ、作中の描写だけでは補完できない印象がありました。
特に技術面ですかね、虹彩認証やタッチパネル、人間の体質改善など、40年後には実現していそうな技術もありましたが、宇宙航行の技術はオーバーテクノロジーで、そこまで発展していても本能を御することもできないのか、というか人工冬眠じゃダメなの…?

あとは閉鎖環境で育った子ども達に対して人類の未来を託したり、行動原理が使命感しかなかったり、宇宙船内での生き方しか知らないのに自分らしい生き方を説いたりと、少々倫理観に欠ける描写が目立っていたかなという感じ。

人間の本質は理性なのか本能なのかという命題は考えさせられましたね。
元を辿るとクリストファーが持ったブルーの正体は?という疑問から始まった問題で、知識欲や性欲、支配欲など、一概に悪と決めつけられない本能の描写も細かいながら後々効いていました。

しかしそんな命題も孕んだ闘争の末が、理性があれば大丈夫、民主主義がいいという結論なのは、少々プロパガンダかなという印象。
あと斜に構えすぎかもしれませんが、ここまでブラックな描写で終盤まで進んだのだから、もう少し胸糞悪いラストでも良かった気がします、なんだか綺麗事で無理矢理丸く収めた感…。
Jun潤

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