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Izmena(原題)
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『Izmena(原題)』に投稿された感想・評価

[親密な裏切りの果てに] 100点

大傑作。健康診断に行った男が担当の女医にこんな言葉を掛けられる。"最近気分が良くないの…夫が浮気してるから…"。男が知るかよ、と返す前にこう続く。"あなたの奥さんと"。このミステリアスすぎるオープニングで引き込まれるが、打ちひしがれて病院を出た男の目の前でバス停に車が突っ込む事故が起こり、更に展開は迷宮へと入っていく。男は二重に心をやられて帰宅するが、出迎えるのはいつも通り優しい妻と距離感のある息子で、夫婦関係は全く良好なように見えるので、不倫しているとは到底信じがたい。一方、女医の方はというと、夫婦関係は冷めきっていて会話も少なく、不倫していると言われても納得するしかない。男は女医と再び出会い、彼女に導かれるままに互いの配偶者同士の密会場所(公園→ラウンジ→ホテル)を案内され、それがあたかも男と女医の密会であるかのように変質していき後に現実となる。現代ロシアの『花様年華』という感じか。そもそも健康診断に行ったら偶然か必然か妻の不倫相手の妻が登場するという宝籤当たった並みの奇跡が起こっているのに、そこから目の前で大事故が起こったり、女医に紹介された不倫現場で妻を目撃したりと"起こりそうにもないが起こる可能性のある出来事"が次々と起こっていく不思議さにこちらまで心がやられてしまう。

不倫していた二人は中盤くらいに死亡するこで不意に退場してしまい、不在になった彼/彼女に対する喪失感や、残された二人の関係性を描くのかと思いきや、時間が一気に未来へと飛ぶ。この切替は、女医が森の中で衣装を着替えることでシームレスに行われるのが鮮やか(ただ、めちゃくちゃ混乱する)。時間が未来に飛んでも、描かれるのは互いに再婚して偶然再会した後のことで、ここでも映画でしか起こり得ないような偶然を強調しつつ、遂には前半の不倫関係を後半で男と女医が繰り返すという奇妙に捻れた展開にもつれ込む。様々な"起こりうるが普通は起こらないこと"を経験した後、最終的に"起こりうるし実際起こる"ような平凡さが彼らの生活の終幕となる華麗さに惚れてしまう。なにせ前半は奇跡的な出来事が彼らの関係性そのものを神聖なものにしていたが、後に平凡なものを分かるのだから堪らない。

本作品にはもう一つ見方がある。それは、着替えによる場面転換によって、名前を持たない主人公たちが個から一般へと拡張されたとするものだ。その後の展開を男と女医の再会ではなく、一般化された不倫恋愛と捉えることで、個人同士の関係性の捻れもより大きな意味での不倫として回収される。その点で、平凡なものとして回収される個人の不倫恋愛が、不倫恋愛の一般化としても機能しているということで解釈が最終的に合流する。良き。
S

Sの感想・評価

4.5
 映画の半分くらいのところでアクシデントのように不倫した男女は死んでしまって、今度は不倫されていた男女の不貞の物語になっていく……と思いきや、シームレスに時間が飛んで過去と現在がつぎはぎになって、いま見ているのがどの男女の話なのかと混乱を起こさせるように構成されている。特定の男女のドラマではなく、不貞する男女一般の図解に映画が変調するかのようだ。作中で二人はお互いをほとんど名前で呼ばないのだけど、それもおそらく不倫された男女の喪失感をめぐる平凡な欲望に焦点を合わせるためだろう。不貞というありふれたテーマをどんなふうに扱うのかと思ったらそれこそ裏切られて、張り詰める男女の緊張感の不気味さにやられてしまった。
 着替えで場面転換する手法は劇作家としてのキリル・セレブレンニコフの好みだろうか、意表をつかれるしワンショットで仕掛けられるあたり映画的な技だと思う。ぐるりと人物のまわりを旋回するカメラの動きも特徴的で、見ている観客の視線があっちこっち右往左往するので特定の誰かに感情移入せずに済む。