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⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎のうかりシネマのネタバレレビュー・内容・結末

⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎(2023年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

『ゲゲゲの鬼太郎』第6期の劇場版だが、エピソードとしては独立している。
70年前——昭和31年、外界と孤立した哭倉村で、復員兵で血液銀行員の水木は大家の跡目争いに巻き込まれる。村には消えた妻を探す謎の男、後の鬼太郎の父“ゲゲ郎”もいた。

作画はぬるぬるでリッチ。どの場面でも気持ちよく動くし、レイアウトも情緒があって大人向け。
孝三との面会〜裏鬼道戦は中割りを抜いて主線をなくし、背景も景気よく作画で崩し、現代的な……ワノ国編系統の作画。対してクライマックスの狂骨戦は、子供向けアニメの劇場版スケールという感じでヒロイックで、二つのアクションを差別化できている。

骨子は金田一的なミステリからゲゲ郎と水木の目的にシフトするが、その分岐点が描かれないまま進むので締まりがない。
ミステリ部分は構造を利用しただけでミステリではないという評判を聞いていたが、推理を妖怪でご破産にするメタミスの要素とかはなく、フレーバーで使われるだけ。基本的に映像作品で(“ミステリ”、“探偵”ではなく)“推理”はできないものだが、前評判を知らなければかなり落胆していたはず。
この謎解きについても、なんとなく怪しい人物が犯人で、探偵役も状況証拠だけで推理するという杜撰さ。これならもっと超常的でよかったのでは。

最後に残された狂骨も役割は理解できるが、未来を託した者がそれを全うできないという胸糞悪さで、創作倫理をコントロールできていない。それが戦後史にかかる何かしらのメタファーになっていればともかく、テーゼ的な意味合いもない。
ラストもやりたいことは分かるが、急に全てを投げ出してしまう。ギミック自体は面白いが、一本の映画を終わらせる力を持ってはいなかった。
観客の視点は水木にあるので、現代パートで記者を用意するのも、記者がこれを語り継ぐというのも意味不明。
ストーリーも作画もいい、要素も面白いが、映画というパッケージに相応しいものにはなれなかった。
先に脚本家の名前を確認して、期待せずに観ればよかった。