2007年。5回目の視聴。砂漠で狩りをしていたモスは、麻薬取引で揉めた結果相討ちとなった集団の死体と札束の詰まったバッグを見つける。バッグを持ち帰ったはいいがちょっとした仏心から足がつき、ギャングだけではなく何か変な髪型で気の狂った殺し屋に追われることになる。
物事が上手く回らない、計算違いばかり起きる、という映画である。監督&脚本のコーエン兄弟らしい物語と言えるが本作には原作があり、そちらでは国や時代を越えた虚しさが実にパサついた感じで描かれている。コーエン兄弟はいつもの意地悪な微笑を引っ込めて(殺し屋の髪型は除く)、真面目にこのパサつきと向き合っている。
音楽はほぼなく、画面は常に渇いていて(序盤に出てくる半死人が「水」を求めるのが示唆的)、血と暴力が突発的に吹き荒れ、笑いもなければ救いもない。この世はほとんどのことが偶然で決まる無情の世界である。しかしそんな世界に我々は住んでいるのであり、血と暴力がなかった時代などない。「いやぁ昔は平和だったよ」「なんでこんな時代になったのかねぇ」と嘆くくらいならジタバタせずに隠遁した方がよい。いつの時代もどの場所でも、物事はうまく回らないのだから。
そんなテーマを体現するかの如くヌッと存在している変な髪型の殺し屋も、時代や場所に関わることなく超然としているように見えて「実はそれっぽく見える」だけである。誰一人として偶然や無情からは逃げられない。おそろしいことである。ともすればアッサリしすぎにも感じるコーエン兄弟のスタイル、タイトな作りと行き届いた音響や照明、砂を噛むような内容、これら三つが合わさって見事に結実している。よくわからなかった人は10年くらいしてから(つまり年を取ってから)もっかい観てみてほしい。