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ライダーズ・オブ・ジャスティスのambiorixのレビュー・感想・評価

4.1
これはデンマークの製作ですが、北欧の映画って鑑賞者に要求してくるリテラシーがばかに高いというか、「これって笑っていいやつなの?」のラインぎりぎりを攻めてくる作品がやたらと多い気がする。厳粛なお葬式の場の空気に耐えられなくなって笑っちゃう、みたいなタイプのブラックユーモアが特徴的なんだけど、その辺りにハマれない人はあんまり楽しめないし笑えもしない。本作『ライダーズ・オブ・ジャスティス』も場合によってはジャンルがコメディだということに最後まで気付かない人が出てくるかもしれない。とくに顕著なのが賛否が分かれるであろうラストのクリスマスパーティのシーンで、ここはまあだいたい「あんなにたくさんの人間を殺しておいて何のんきにパーティなんかやってんだよ!」派と「喪失からの再生や家族の絆の尊さを謳いあげたハートフルなハッピーエンドだったよ」派の二派に大別できると思うんだけど、俺はどちらの解釈も取りたくない。っていうか、額面通りにこのいずれかを取ってしまうと今までやってきたことはなんだったの?という話になりかねないし、脚本の据わりもいまいちよくない。なのでいっそのこと二派をそれぞれ組み合わせてみよう。「いくら相手が悪党だとはいえ大量の人間を殺したやつらが一丁前に喪失からの再生ごっこを楽しんでいやがるよ」的な、どこか登場人物を突き離して俯瞰したような皮肉オチだ。いみじくも劇中で統計学者のオットーが言うてるように、事象の因果関係を気にしはじめたらキリがない、ってんでみんなして真相から目を背けてるわけですね。列車事故は紛れもなくROJの仕業だし、俺たちは正義の力でもって悪を断罪しただけなんだと。そう考えるとマッツ・ミケルセンの着ているトンチキなセーターの柄やあまりにも強引すぎるクリスマス映画風味のラストやなんかも笑いの要素としてしっかり立ち上がってくる…ような気がする。図らずも悲劇の元凶になってしまった女の子のショットで全体を締めるというのも皮肉が効いていていい。総評すると、よくある「舐めてた相手が実は殺人マシンでした映画」のプロットにポストトゥルースの視点を組み込み、ツイストにツイストを重ねて極上のブラックコメディに仕上げた、とってもユニークでおもしろい作品だったと思います。
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