Masato

ライダーズ・オブ・ジャスティスのMasatoのレビュー・感想・評価

4.5

自分自身と向き合うことの大切さを説いた傑作

デンマーク製の復讐劇。ポンコツ学者によるコメディ要素多めのアクション作品という触れ込みだったが、それ以上に失意から抜け出せない人のメンタルヘルスを描くドラマとして非常に素晴らしい出来で、思わず涙が溢れる作品だった。最近こういう物語増えてきて嬉しい。

ちょくちょくコミカルを挿みながらもどっしりと重たいシリアスなドラマやキツめのバイオレンス描写があって振り幅が非常に広いが、それを上手く利用したストーリーテリングをしているためミスマッチさは無い。死や暴力が身近にある軍人のマーカスとそれ以外の理系オタクたちの生きる世界の境界線がハッキリしており、その対比によってバイオレンスがしっかりと恐ろしく描かれているところが良かった。そして、わりとジャンル系のものかと思いきや非常に繊細なドラマでひっくりかえして観客を魔法のように引き込ませる作り込みは見事。

復讐劇というものは主人公にとっても観る者にとってもヒールに対する憎しみが原動力となって、その感情に訴求することで面白さというものを獲得するものなのは必然。その感情をひっくりかえすことで、復讐に対するアンチテーゼとなっているところは非常に良かった。その点でジャンル映画っぽい箇所と繊細なドラマを意図的に使い分けているところが非常に上手いと感じるし、やられてしまった。

本作は復讐はやってはいけないものだと簡潔に伝えないで、復讐という感情はどのようにして生まれてしまい、それから抜け出せなくなってしまうのかというのを主人公のマーカスを通して丁寧に描いている点が素晴らしい。これは失意という感情が簡単に抜け出せるものではないから、プロセスを丁寧に、真摯に向き合って描いている。なので非常に説得力があるので疑問を持つ人はいないだろう。

誰かに助けを求めること、自分自身と向き合うことの大切さを綺麗事ではなく、メンタルヘルスの側面から現実的に描いている。その役割を担うのは心に傷を負ったポンコツ理系オタクたちで、この面々が非常に良い味を出していた。合理性が前提の理系たちに物事の因果関係に囚われていたら一生抜け出せないと説かせるのは本当に泣けた。それを意識した脚本の構成も見事。

自分の弱さを曝け出すことは恥なんかじゃない。弱さを認識して共有して、受け止めて、前を向く。マーカスは誰にも弱さを見せずに敵を作ることで感情を埋めるという、有害な男性性に毒されていて、そこからの脱却の重要性も説いている。非常に現代的なテーマである。

なにかメンタルで躓いたときに見たら涙ドバドバ溢れて仕方ないと思う。本当に優しい映画だった。
Masato

Masato