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バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版のnetfilmsのレビュー・感想・評価

3.0
 ドラマ版は未見ながら、コナン・ドイル原作の大胆な翻案ということで絶対に観に行くしかないと思い馳せ参じたもののう~ん、これはどうなんだろう。舞台は現代に置き換えられ、瀬戸内海に浮かぶ離島で、リゾート地の様な雰囲気を持った風光明媚な土地で事件は起こる。日本有数の資産家である蓮壁千鶴男(西村まさ彦)が獅子雄と若宮が見守るパソコンのモニターの前で謎の死を遂げる。いかにもフジテレビ肝いりの映画らしく、西村まさ彦は『古畑任三郎』の今泉ばりのファン・サービスを一通り行ったあとに非業の死を遂げるのだが、狂犬病ウィルスによる死の癖に実にコミカルで漫画的だ。確か原作では被害者は最初から陰惨な死を遂げており、声すら発さない。ましてや少しずつ毒が回り、時間差では死なない。すぐに遺体の解剖が為され、医師は不審なところのない病死として処理するが、ホームズはまずそこに疑問を持つ。そして相続に関係する一家が集められるのだ。今作で曰くつきのこの家に集められたのは千鶴男の妻・依羅(稲森いずみ)と長男の千里(村上虹郎)、蓮壁家の使用人(椎名桔平)らなのだが、原作では未亡人は出て来ず、使用人のキャラも微妙に変化が施される。ここで獅子雄たちは、いかにも胡散臭い大学准教授(小泉孝太郎)と出会うのだ。この小泉孝太郎の役は今回加筆されたキャラクターで、原作には出て来ない。この役がはっきり言ってミステリーに無用の長物なのである。

 そもそも原作はヴィクトリア朝末期の話だから、現代に翻案しようとするとどうしたって無理が生じるのは致し方ない。イマドキ椎名桔平のような使用人がいる家庭などもはやどこにもないだろう。おまけに今回は蓮壁家のリフォーム業者として広末涼子を往来させるなど色々と苦心しているが、そもそも土台となる設定そのものに無理がある。『バスカヴィル家の犬』はざっくり言えば、魔犬伝説に基づく先祖代々の呪いにかこつけた欲望渦巻く遺産相続の話なのだが、だとすれば千鶴男の次に殺される人物が随分あっさりといなくなってしまった印象で、あの人の早々の退場により尺が余ってしまう。そもそもの話が、真冬であろうが瀬戸内海に浮かぶ島で一晩で凍死などというのはあり得ない。この規模の映画で魔犬を扱うのは難しいという動物愛護団体への配慮があったかどうかは定かではないが、新品の靴の差し替えトリックは原作を踏襲しながらも、1件目が狂犬病で2件目が凍死とした微妙な改変はミステリーとしては随分寂しい。付け加えて罠の位置替えもトリックとして陳腐だ。代わりに膨らませたエピソードというのも、ある日幸せな家族を引き裂いた悲劇といういかにも「土曜ワイド劇場」にありそうな陳腐なエピソードがべったりと長い時間回想される。壁に貼られた幼少期の絵や水商売の看板、犬型の痣、そしてドローンなど今作で書き足されたイメージの数々が映画としてことごとく絵にならないのも辛い。ドラマ版を観ていないので断定は出来ないが、ディーン・フジオカの演技がどうも石坂浩二版の金田一耕助を参考にしているようで、微妙にホームズのイメージを外しているのも気になった。
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