ちろる

Ribbonのちろるのレビュー・感想・評価

Ribbon(2021年製作の映画)
4.1
のんが、監督、脚本、編集、そして主演まで担当したのんの世界がぎっしりと詰まった作品。新型コロナウイルスまん延の影響で卒業制作発表の場を奪われた美大生の再生を描く青春ドラマ。
コロナウイルスが蔓延し始めたあの、寂しくて、得体の知れない空気感がものすごくリアルに描かれている。
色んな人が仕事、学び、強制的にストップさせられたあの2020年。
どの立場の人が一番可哀想かなんて、比べられないけれど、人生において一番大切なキラキラした時間を奪われた学生の気持ちは、計り知れない。
物事に順位なんてつけられないはずなのに、演劇、映画、ドラマ、美術、音楽などをすべて国は「不要不急」と位置づけ、それらに関わる人々は苦い汁を吸わされた。

のんが演じるのはそんな中の1人、制作することを止められた美大生いつかを演じている。
オープニングに映し出される美大の中では、泣きながら大作をバキバキに壊すなど、物々しい雰囲気が漂っていて、重みのあるテーマではあるが、その中でもところどころコミカルな要素を入れ込み、シリアルになりすぎない仕上がりになっているのはさすがのんのセンスである。

主に舞台となるのはいつかのアパートの一室であり、そこへ次々と彼女の家族がバラバラに訪れ、それぞれがズレた感覚を持ってして落ち込んでいる彼女を惑わす。
これは舞台劇にもなりそうな演出だ。

登場人物はとても少ないが、皆、ちょっと愛嬌があり、どのシーンも飽きさせない。

そんなやり取りとは打って変わって、後半は同級生との、繊細なやり取りにシリアスな雰囲気が漂い、さらにはその友情をつなげる為の一世一代の悪戯に打って出る展開にハラハラドキドキさせられる。

私は美大生では無いのでわかるとは決して言えないが、飛び立つための羽をもがれた彼女たちの苦しみは理解できる。
誰に理解されていなくても、自分の中から生まれた作品たちは誰かに奪われるべきじゃない。
誰かに壊されるくらいなら自分たちで壊した方がマシ。
結局、彼女たちは自分たちの作品を「コロナを作品の中に落とし込む」ことをやってのける。
そんな若者たちのエネルギーはクリエイティブに生きるのんちゃん自身の感覚ととリンクしたのだろう。

彼女は女優として今さまざまなハンデがある。
まだ20代で、色々な苦汁を飲まされた彼女だからこそ、こんな風に自らで動き、映画を作ることに至ったわけで、この子は転んでもただでは起きない只者ではない女優さん。
そんな彼女と、この物語のいつかはしっかりとリンクして、いつしかのんちゃんの物語と観ていた。

物語自体はコロナ禍の美大生というコアな部分を攻めているものの、、実際にはあらゆる業界で同じように起きたことを代弁しているように思えるから、多くの人に響くのではないかと思う。

コロナ禍の今を嘆くことは簡単だが、コロナ禍でなければしなかった経験をして、コロナ禍でなければ作り出せなかった作品にたどり着いた彼女たちのように、憎いコロナを人間の持つクリエイティブなエネルギーで嘲笑うことだってできるのだとこの作品は教えてくれる。

その昔、たしか「海月姫」上映の前後あたりだったと思うが、のんちゃんらの作り出した作品を展示する「のん展」を見に行った事があった。
多くの個性的な洋服があった中で今回の作品に象徴的に登場するリボンともリンクするような展示もたしかあったような覚えがある。
この物語では、リボンはただ着飾るためのものではなく、いつかたちが再び飛び立つための羽のような存在となって明日への希望を象徴しているようだった。
そしてラストはサンボマスターの応援ソング。
のんちゃんは、サンボマスターに自ら手紙を書いてテーマ曲を依頼したのだという。
かっこいい。
サンボマスターの力強い応援ソングとともに流れる映画のエンドロールに、「脚本・監督 のん」という文字が浮かび上がるエンディング。

まだまだ伸び代があるとはいえ、後ろ盾の少ない20代の若き女優が、処女作でここまでのクオリティの作品を作り上げたことの凄さは多くの人に知ってもらいたい。
コロナ禍の残り香がある今、観て多くの人がそれぞれに感じ取るものがあるのではないかと思う。
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