マーくんパパ

煙突の見える場所のマーくんパパのレビュー・感想・評価

煙突の見える場所(1953年製作の映画)
3.6
今から考えると想像を絶するプライバシー空間のない戦後の借家。玄関上り口横の居間で夫婦抱き合えば帰ってきた独身下宿人に丸見え、2階の独身男女も襖一枚で仕切られただけ、品行方正だったんだね。お化け煙突が4本そびえ立つ東京荒川沿いの下町、見る位置によって煙突が重なって1本にも2本にも3本にも見える。つげ義春の初期短編〝お化け煙突〟を彷彿させる、東京のあちこちにこうした煙突あったんだね、つげ作品は嵐の日に巨大煙突の煤払い掃除を志願して命を落とす貧しい一家の父ちゃんの話だったけど。本作はこの借家夫婦の家に妻の前夫が赤ん坊を捨てていったことでの騒動劇。夫は妻に前夫との疑惑を向け自身も重婚の咎を恐れ、妻は無理解な夫に疲れ果て自殺一歩手前まで困憊する。下宿人男女は捨てた親の無責任さを嘆きながらも女に咳立てられて捨てた親探しに男は歩き回る。泣き喚いていた赤ん坊が重篤になり徹夜の看病してるうちに無辜の赤ん坊の生きる力に各自勝手な想いが一つになっていく。煙を吐き散らしているバラバラの煙突も見ようによっては一つのまとまった煙突になっていく…。ご近所とも密接に繋がった戦後間もない生活風景が今や懐かしい。