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コーダ あいのうたの大大のレビュー・感想・評価

コーダ あいのうた(2021年製作の映画)
4.7
家族の中にある、聴覚障害の有無による壁を、
歌ではじめて乗り越える父と娘のお話。

<ストーリー>
4人家族の末っ子長女の主人公は、自分以外の家族が聴覚障害を抱えているため、社会の健常者たちとの通訳をしながら生きてきた。

早朝に家族総出で漁に出て、高校に通う生活を送っているが、学校の中では変わり者扱いで肩身の狭い思いをしていた。

歌が好きだった主人公は、コーラス部に入り、片想い男子とデュエットをすることになる。



以下ネタバレ気味



いい感じになりかけたふたりだが、
その男子が、主人公の両親からコンドーム付けろよトークを展開された体験談を、女子連中に暴露したことで、険悪になる。

名門音大への進学を勧められた主人公は、顧問から烈々指導を受けるが、家族の世話で両立ができないでいた。

音楽をやっていることの理解を得られないことから、家族とも対立するようになる。

片想い男子といい感じになっていく主人公だが、
家族は、漁港の組合から派遣された監査員の通報で、主人公一家は漁に出ることを禁じられてしまう。

これまでのように家族優先で生きてきた主人公は、親の愛情と引き換えに音楽への道を断念する。

兄は、自分を犠牲にする妹の姿勢と、障害がある家族だけの姿になれない悔しさを吐露する。

校内のお披露目コンサートで合唱をする主人公だが、それを観にきた家族には、彼女の歌声は届かない。
父は、周囲の反応を観察し、さらに、娘の声帯の手ざわりで歌の才能を確かめようとする。

飛び入りで無理くり音大受験することになった主人公は、顧問の後押しで歌を披露するが、
その場に居合わせた家族に伝えるためだけに歌う。

その姿勢が評価された主人公は音大に合格し、
家族の呪縛から解き放たれる。



▼歌上手い系主人公によくありがちな世間から拍手喝采シンデレラストーリーとは全然違うのがGOOD

▽主人公の歌の才能を披露する場が、学校内のお披露目コンサートだったり、大学入試の歌唱試験だったり、めっちゃ内輪な感じなのが良い

▽世間から評価を得る姿ではなく、自分のただ好きなことに正直になることだけのシンプルさがいい

▽あれだけ家族に尽くしてきたんだから、それぐらいいいだろうと、見ている側も変にひがんだりせずに見れる。



▼感動は「壁を乗り越える瞬間」にこそある。

主人公のお披露目コンサートでの表情がすごい。

▽自分の歌声も、歌が好きだという気持ちも決して家族に届くことはないことを、当たり前のことのように諦めていることが表情だけでわかる。

▽あれだけ練習した歌の続きを、聴覚障害がある視点から無音でみせられることで、「これはわかるわけないわ」と観客も諦めさせられる

▽この壁は絶対に越えられないというものが強烈に印象づけられる。

▽家族には絶対に届くことはない無駄なものだけど、それでも音楽を続けるという姿勢も感動的だけど、その歌が長年あたりまえだった家族内の壁を壊すことが、一種のどんでん返しになっている。

▽絶対に届くはずのない歌を家族のためだけに、全身で捧げる姿は泣けちゃうよ。



▼家族がいたから自分は生きてこれたけど、確実に呪縛にもなっている、家族というものの二面性が良く出てる

▽すごい特殊な環境にいる主人公だけど、この家族の恩恵と呪縛の二面性は、普遍的なものだから、すごい共感できる。

▽そして最終的には、いつの間にか自分の家族のことを思い出している。


▼良いことと悪いことの織り混ぜ方、笑いのぶっ込み方、シーンの順番、主人公の視点、家族の視点に観客を感情移入させる持って行き方とか、完璧すぎる!
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