Lilie

コーダ あいのうたのLilieのネタバレレビュー・内容・結末

コーダ あいのうた(2021年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

ろう者本人として視聴。
フランス映画「エール」のリメイクとかで、「エール」はその時見れなかったのだが、見なくてよかった、かもしれない。
なぜなら「エール」ではろうの家族たちはろう者が演じていないのだという。
本作では両親、兄はろう者が演じている。
なんで羨ましい、そう思った。
日本ではアカデミー賞ノミネートになるような映画にろう者がろう者の役で出てることはほとんどない。
思えば本作の母親役のマーリー・マトリンはオスカー女優だ。その事実だけでも違う。
パンフによると手話監督をつけたというのも素晴らしい。書き言葉と手話って翻訳苦しむので必要!

さて、ルビー役のエミリアのなんと生き生きした手話のことか!ASL(アメリカ手話)だから私には良し悪しは正確にはわからないけど、聴者が演じるコーダでは今まで見た中で一番じゃないだろうか。多言語の手話でも丸暗記して表してるとすぐ分かる。彼女はそうじゃなかった。それくらい自然で表情が豊かで魅力的だった。

見る前は複雑な気分になりそうかな?と思った。コーダに頼り切りになる、ろう一家という図式を当たり前と思ってほしくなかったからだ。聞こえなくてもみんな力強く生きている。したたかに生きている。今は電話リレーサービスもある。アメリカはもっと大昔からある。強力な障害者差別禁止法であるADA法もある。通訳者も昔よりはいるはずだ。

しかし見初めて綺麗事では済まないと知った。漁船に乗るからには無線が使えないといけないということに初めて気がついたからだ。もちろん世の中ろう者だけの世界なら無線はテレビ電話になり、手話でやるだろう。着信も光で知らせるだろう。しかしここは音でやり取りすることが圧倒的多数の世界。広い海のなかで無線ができないということは自らが危険な時もあるだろう。
ううむ。

ルビーが大学に行かない時選択した時、船という閉ざされた場での通訳の面でどうしようもないのか…と唸った。
お兄ちゃんの罵詈雑言に聞こえるけれども自分の人生を歩んでほしいという隠された気持ち。それに少しほっとした位だ。

二つの世界を行ったり来たりするコーダ。家の中でも疎外感を感じ、聞こえる世界でも違和感を感じる。家族で音楽を聞くのを嫌がられたりする疎外感。聞こえる側からみるとわがままに見えるかもしれないけど、ろう者は聞こえる人に囲まれていつも孤独を感じている。だからこそ家族に遠慮したくないんだろう。でも聞こえるコーダは音がが聞きたい。ジレンマ。その哀しみ。永遠に変えられない川のあっちとこっち。

私は補聴器をすると歌ってるな、男の声だな、音の高低、のびやかそうだなくらいはわかる。歌詞は聞き取れない。

途中音が聞こえなくなるシーンがあった気がする。音が聞こえないとこういう感じ、というアレだ。その時のろうの父親が周りを見回す時のあれは自分を見るようだ。周りをキョロキョロ見て今何が起こってるか知ろうとする。そしで父親はあることに気がつく。そして自分なりの方法で娘の歌を感じ取ろうとするのもわかりみすぎて泣ける。わたしでもそうする。振動はよくわかるから。

手話をつけて歌うシーンがある。
実は声を出しながら手話をするのは二つの言語をいっぺんに喋ろうとするようなもので結構きつい。それを練習しないでやるルビーは流石にコーダだ。

私自身が親が聞こえるため手話を母語として育ってないので、V先生に問われて手話で返すシーンみると、ああ彼女は手話が母語なんだって思った。わたしも手話を母語にして育ちたかったという哀愁も込めて(親との関係は良好でたくさん愛してもらったけどね)。

本作を見て、か弱いと思っていたろう者たちが、かくも強く、ユーモアに溢れていて、下ネタも言うし、そして罵詈雑言もいうのだと、聞こえるみなさんは思うだろうか(あそこがあるからPG12なのね(苦笑)戦士のくだりはASLわかんなくても充分わたしにはわかる(笑))。手話を覚えた後、ろうの仲間たちの繰り広げるユーモアにわたしはなんど笑い転げたことだろう。車越しにだって会話しちゃうのだ。そんな隠された世界が知られちゃうなぁって思う。

V先生も素敵。
ルビーの力の引き出し方よ。ヒーローぶりよ。手話を習ったらうまそう。
ラブソングやらせるところとか、飲み物飲みながらクラブするところとか、ああアメリカやなって思う。日本はちょっと堅苦しいよね。それはよくもあるけど。そういうアメリカの高校生活風景も含めて、個人的には港町や湖?の美しさに目を奪われ、もちろんあんなにスタイルよくないけれど自転車に乗って颯爽と走るルビーみたいに過ごしてみたいなと思ってしまった。牧歌的な風景だからか、なぜかわたしは予告編でヨーロッパだと思い込んでた。そりゃアメリカにも港町はあるよね。綺麗だったなぁ。先生の住んでる家とか森の中にあって別荘のよう。

サントラ売ってるくらいだもん。聞こえる人には歌が素晴らしいんだろうな。歌詞がストーリーとリンクしていて、わたしにはメロディは分からないけどそれを読むだけでうっとりした。

音楽のCODA記号は次の章の始まりの意味も持つと言う。それぞれの新楽章。結局通訳はどうなったん?と思わなくはないけど(苦笑)、もう一回見たくなる。そんな映画だった。

なお、小さな映画館で見たのだけど、後ろを選んでしまい、思ったよりスクリーンが小さくて手話が読み取れないところがあったのが残念。前に座るんだったー!
Lilie

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