こたつむり

コーダ あいのうたのこたつむりのレビュー・感想・評価

コーダ あいのうた(2021年製作の映画)
4.2
♪ 狂った素晴らしい世界で
  君の笑顔を 探してる
  ah ah 戸惑いの中 叫んでる

「アカデミー賞受賞」なんて箔はいりません。
『あいのうた』という副題も蛇足です。
良い映画は観たら分かります。特に目を見張る展開がなくても“やさしさ”がジワッと伝わってくるのです。

だから、先入観は捨てるべきでしょう。
大切なのは全身で作品を受け止めること。
空や海の青さ、響き渡る歌声、時折の沈黙。
ひとつひとつの“意味”が肌の毛穴からククッと吸い込まれるように、ただただ黙って“感じれば”良いのです。

何しろ、本作は感動を“強要”しません。
障碍者を特別視せず、良いところも悪いところも剥き出しです。でも、それは当たり前のこと。メルヘンやファンタジーじゃあないんですからね。生々しいのが人間です。

また、それゆえに物語も終わりません。
タイトルの『コーダ』聴覚障碍者を親に持つ子供のことですが、音楽記号で言えば「終わり」。しかし、現実はどこまでも続きます。ハッピーエンドの先にも人生はあるのです。

だから、解決しないのも当然の話。
彼女は今後どうなるのか。家族はどのように難局を切り抜けるのか。それは観客ひとりひとりが想像すれば良いこと。自分の行先は自分で決めるように、本作は着地点を委ねています。

いやぁ。懐が深い筆致ですなあ。
特にその象徴が《先生》ですね。
ユーモアを交えた独善性と、自分の使命を理解している眼差しの強さが最高に素敵でした。演じたのはエウヘニオ・デルベス…って寡聞にして初耳の御芳名ですが、これからの活躍を祈念しております。

まあ、そんなわけで。
声は届かなくても心が震えれば届くものがある…そんな味わいに満ちた物語。中途半端な部分も含めて楽しい作品だと思います。理屈ではなく“こころ”で受け止めるが吉ですね。
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