三樹夫

隔たる世界の2人の三樹夫のネタバレレビュー・内容・結末

隔たる世界の2人(2020年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

グラフィックデザイナーの主人公が女性のマンションで起きて、犬が心配だからと自宅に帰ろうとする。マンション前でタバコを吸っていると金の束を落とし、通行人にぶつかりシャツを汚してしまう。白人警官がやってきてお前怪しいなと所持品検査を要求されるが、断ったら上に乗られて首を絞められて息ができないと死んでしまう。これはジョージ・フロイドがされたことだ。
次の瞬間また女性のマンションで起きる。ループしているのだ。今度は金の束も落とさないし通行人にぶつかりもしない。しかし同じ警官がやってきてまた殺されてしまう。このループで挙動不審とか犯罪を犯しているとかそんなんではなく、黒人は外にいるだけでなぜか警官に因縁をつけられることが表されている。
そしてまたマンションで起きるが、次はもう外には出ない。しかし部屋の中に警官隊が突入してきて殺される。これも実際にあったことだ。部屋で寝ていただけなのに警官が突入して撃たれたり、部屋を間違えて突入してきた警官に撃たれるという事件が実際にあった。
その後も何回もループするが同じ警官に殺される。このループは、現実世界で何件も起こっている警官から黒人への虐待を表すものだ。

主人公はやり方を変え、自分から積極的に警官に話しかけてパトカーで家に送ってもらうことに。車中で警官と打ち解けたように見え、隔たりができた溝も埋めることができると希望を持つが、結局最後は警官に撃たれてしまう。この隔たりはそう簡単に埋まるものではないことが示される。この後も何回もループが続くのだろう。つまり警官に黒人が殺される、もっと言うと人種間の隔たりはずっと埋まらないことを想像するが、しかし諦めないぞと闘志を見せる前向きな主人公の姿で少し希望を持つことができこの短編は終わる。
メタファーとしてのループや劇中内の出来事、そしてバッドエンドで終わらない終わらせない精神を提示するよく出来た短編だった。
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