Jun潤

太陽とボレロのJun潤のレビュー・感想・評価

太陽とボレロ(2022年製作の映画)
3.7
2022.06.07

水谷豊監督・脚本・出演作品。
今までにも同監督の作品はありましたが、なかなか食指が動いていなかったので、今回の機会に初鑑賞。
『相棒』シリーズでの姿しか知りませんが、主演の檀れいが二代目相棒神戸尊役及川光博の奥さんということに繋がりを感じつつ。

18年続いているアマチュアオーケストラの弥生交響楽団。
年々観客は減っていき、自治体からの助成金も下りず、主宰の花村と鶴間の懐事情も芳しくない。
それに加えて、3年前から指揮者を担当している藤堂が病に倒れ、ついに花村は楽団の解散をメンバーに公表し、お別れコンサートの開催を決める。
最後のコンサートが近付くにつれ、メンバーは楽団で演奏する中で芽生えたさまざまな感情に決着を着けていくのだが…。

これはまたい〜い音楽映画。
そして子供の出ない濃度100%の大人の青春映画。
序盤は檀れいが演じる花村の生活に焦点が当てられ、弥生交響楽団の背景や現状、先行き不透明な様子が語られています。
予告編の最初に語られる「解散」に至るまでの過程が丁寧に描写されているので、少なくとも出オチ感だけは回避できるます。

そして中盤以降描かれるのは大人の青春群像劇。
大人たちが捧げる青春とその価値と対価、解散に対する行き場のない怒りと、だからと言ってなりふり構わないのではなく大人なりの分別がついているシュールさ。
そんな壮年期のおじさん達の一方で、音楽を愛し、音楽にしか生きられないまだまだ不器用な若者たちの様相。
ターゲットとなる年齢層は高めですが、一度入ってしまえばどの年代でも楽しめる安全設計です。

終盤には音楽が与えてくれた幸せの形。
それは最高の形で終わりを迎えるだけでなく、音楽に関わらず、何かに熱中するには何かを犠牲にしなければならない、その熱中するものを失ってできた空白は、また違う何かで埋めればいい、それは愛情という、生きていく上で別の物語を見せてくれるものなのかもしれない。

キャラクターは全体的に薄めで、音楽や楽団への関わり方でキャラ付けされていましたが、原田龍二演じる与田さんだけ、際立って悪いことをしていないのに、手首を折るわコンサートに出れないわ、扱いがちょっと雑な気が…。

そして音楽の使い方ですね、なんといっても、いい意味でも悪い意味でも。
まず尺長めのプロの演奏から始まり、背景は描かれないわその後の登場人物も少ないわでなんのため?となりますが、その後に弥生交響楽団の演奏を持ってきて、プロとアマの違いを如実に表すことに繋がっていたわけです。

あとはセリフですね。
マイクを使っていないのか、集音の際の音域設定が低めだったのか、小声のセリフがちゃんと小声に聞こえる、当たり前のことのように見えて最近の邦画ではなかなか見られないので要注目です。

また、花村が楽団のために一線を越えようとする場面にオーケストラの演奏を流す場面があり、この後も同じように演奏と場面をマッチさせていくのかと思いきや、BGMが劇中の演奏でなかったり、劇中で演奏されているのに物語が動かなかったりと、そんな演奏と場面と物語のリンクは今作では満足に見られなかったものの、今後の作品鑑賞の注目ポイントとして項目が一つ追加されました
Jun潤

Jun潤