n4

ひまわりのn4のレビュー・感想・評価

ひまわり(1970年製作の映画)
5.0
洞察力・読心力が必須の最高傑作! 矛盾を解決 魅力と注意点

この映画は数々のヒントから相手の心を読み解いていく必要があります。
これが出来ないと泣けても名作の魅力が半減します。

特に後半記述の ★重要ポイント★ は楽しめなかった人は必読です。
その前に、矛盾を感じて物語が頭に入ってこなかったという人に見解です。4つ。

■疑問1 カバンを投げ捨て汽車に飛び乗った。お金が無くて帰れるわけが無い…

来る時に彼女が列車の中で、左ポケットからグチャグチャの札束を取り出して数えていました。 

戦後の外国、しかも旅人。旅費や貴重品は狙われるので身に付けます。海外では普通です。
危機意識の薄い日本人は今でも特に狙われます。

ちなみにアントニオが毛皮のマフラーを買う時に外国観光と思われ、目の前の人が高いわねぇと言っていた商品を更に十倍の値段にされて買っていました。言葉が分からず気付きませんでした。

■疑問2 全くの手がかりなしで探し出せる訳ないでしょ…

私の祖父は戦死ですが、○○部隊は○月○日にどこから出発してどこのルートを通ってどこどこに向かいました、という詳細がきちんと分かるそうです。

彼女も省庁に案内してもらいました。最後はドン川の近くだと聞けてましたし。

(以降は見ていない人は読まないで)


■疑問3 助けたのが何故アントニオ? なぜ助けたの?

兵士と一緒にたくさんの農民、女性、子供が一緒に埋められているシーンがありました。

家族を亡くした若い女性がたった一人で生きて行くには過酷すぎます。

誰かに守ってもらいたい。寂しい。愛が欲しい。そして毎日恐怖の中でおびえています。

そういう時に倒れた人たちの中に、かすかに白い息が漏れているのを見つけた。まだ生きている… 

もしあなたが女性で顔を覗き込んで、クールでキュートな自分好みのステキな男性だったら、置き去りにして見殺しますか?助けますか?

現地は出兵で、おじいさんしか居ないんです。


■疑問4 飲み込んだイヤリングがどうなったか気になって仕方ない…

ウン●と一緒に出てきます。私はパチンコ玉を飲み込んだけど、出てくる時はすぐ分かります。麻薬はカプセルに入れて飲んで飛行機に乗るそうです。ネジやイヤリングなら大丈夫。気を取られず映画に集中して!(これは映画のユーモアですよ。)

※おまけ → 娼婦が持っている人形は目印です。口コミ商売なので、客に分かりやすくします。

皆さんが、気持ち良く映画に入り込めますように…。



この映画の何が良いか分からなかった、という人へ

◆注意点と魅力◆

この映画の注意点は、表面の言葉だけをうのみにしていかない事です。

ここでこんなセリフ要らないでしょ…ではなく、ここでこんなセリフや行動があるのはなんでだろう?本心を隠してる?遠回しに何かをアピールしている?何を心配している?などと、洞察力が必要です。

数ある伏線(ふくせん)を読み解けば、台詞が無いのに、表情やしぐさから導き出される心の移り変わりや、心の声が鮮明に聞こえてきて、答えを待つあいだの絶妙な“間”や緊張感がハンパなく楽しめます。

また、同じ場面でも見え方が全く変わってきます。

例えば、あるシーンで彼女が母親に八つ当たりしていると思っている人がいました。

しかしその前に、母親が家に入りづらく、外でじっと立っているシーンがあります。これはジョバンナが彼は死んでいたと伝えて真実を隠し、連絡を絶つ為に冷たい態度を取っていた事が分かります。

彼女は母に真実を告げた場合、母がどう思うか、そしてその後の展開を想像します。あいつらの幸せな家庭なんかぶっ壊してやる!ともなっていません。

考えて内緒にした。ここはジョバンナの優しさが隠れている場面なのです。(死んだと嘘ついても母に優しくしていいじゃないか!)…そうしないその理由を考えて下さい。結局耐えれずに言ってしまいましたが。



最大の、“つまらない” と “良かった” の分かれ道になりやすい、

★重要ポイント★ は、イタリア人男性になぜ家に帰らないのかを聞いたら どこの家に? と言われる所からです。

(以下の記述は少し長いですが、最後まで読んでもらえれば、視点の違いと、いくつもの見落としがあったと気付いてもらえると思います。)

ジョバンナはアントニオが生きていると自分に言い聞かせてはいるが、帰らぬ理由を考えると不安もあります。記憶喪失、病気やケガなど。

特徴あるイタリア人を探して情報を求めに行ったが、イタリア人である事を隠そうとされる。

ここでしっかりと“何故?”にすぐクローズアップ出来るか出来ないかで、この映画の評価が変わってきます。

そして、やっと帰らない理由を聞き出した最後の返答が “どの家に?”の一言だけ。しかしジョバンナの背中に戦慄(せんりつ)が走ります。

“どの家に?”→“女が出来た?”と感じた視聴者には、かなり不安を抱えた状態で、緊張感があり、見せ場の見方が人と異なってきます。

事実、おばあちゃんに“あの家かも、行きましょう”と言われても、不安で彼女の足が止まります。

彼女も視聴者も、悪い予感が当たらない事を祈ります。

そしてやっとアントニオらしき家を見つけてニコッと笑った表情から一転、洗濯物の陰から若くてきれいな女性の姿を見つけます。

ここは息をのむ瞬間…。と、その前に、ジョバンナはイタリア人の特徴がかなり強い、という部分が重要な着眼点です。

マーシャがジョバンナの姿を見ればどこからどう見てもイタリア人女性だと分かるので、こんな所に何をしに来たのかはすぐ察しがつきます。見つけた瞬間のマーシャの表情や仕草によっては、アントニオが帰らぬ理由の答えが分かります。

最初のリアクションを心構えて注目して見ている人と見ていない人で、緊張感が全く違う別物の映画になります。

この段階でこの映画を食い入るように見ている人は、

イタリア人を何故隠す?
ひょっとして女が出来た?
若い女性の最初の反応!

この三つの段階を押さえている人であり、それに気付いていない人は、なんかダラダラ淡々と話が進んでいる感じになります。

ジョバンナを見つけた時のマーシャの心の声も、
“あら?見慣れない顔ね?” なのか、

“えっ嘘でしょ!まさか、お願い、こっちに来ないで!通り過ぎて!!”
なのかで全く変わります。

ここからは、ポイント押さえた人たちには、張り裂けそうな心持ちで、二人の声無き会話や心情が双方から鮮明に聞こえてきます。

場面進んで、マーシャは一瞬暗い表情を見せながらも笑顔に変えて動揺を隠し、何事もなかったかのようにスルーして家の中に入ろうとしますが、願い叶わずジョバンナが写真を差し出します。

沈黙の後、言葉を発しようとした瞬間、意表を突いて横から小さい女の子が挨拶をしてきますが、イタリア人だと分かったようで、ロシア語ではなく、たどたどしいイタリア語で、ボンジョルノ(こんにちは)と言ってきた事がポイントになります。ここに気付くか気付かないかでも、誘う涙に違いが出ます。

切ない笑顔で ボンジョルノ と言い返すと、挨拶が通じたのでウフフッとかわいく少女が喜んだあと、ジョバンナの気丈の中にも涙顔がほんの一瞬だけ見えた時、こちらの感情も大きく揺れます。

生きている⁉と喜んだのに、今度は一瞬で人違いであって欲しいと心が急変する。しかし横からイタリア語で少女の挨拶。そして無情にも中に案内される。

少女の挨拶がロシア語だったらとぼけた可能性も。

伏線に気付いた人にはこういう会話の無い中で、表情やしぐさから導き出される心の変化や、答えを待つあいだの絶妙な “ま” や緊張感が半端なく良い所だと思うのです。

ジョバンナがマーシャの家に通された時も心の会話がなされます。いきなりマーシャは執拗に子供を叱り、子どもを持つ家庭の大変さを一生懸命アピールします。(アントニオを連れていかないで!)

直接は言われませんが、その訴えがジョバンナに強くのしかかってきます。
枕などは誰もが見て分かりますが…。

このように見落としや視点の違いが明確に出やすい映画です。

ちなみにジョバンナがマーシャに口にしたセリフは一言でした。

ここは中盤、以降も集中・洞察・読心が必要です。


ほかにも見落としがちな所に、

・精神病院の広場の叫ぶ二人を見て笑った理由。(徴兵逃れの演技だから)
・トラックの上から葬儀の参列を見て何を思ったか。(年老いた母親)
・出国手続きの時の、二人の会話の違和感を読み解く。
・ラストの再会の前に、すでに鏡で子供部屋が強くアピールされている。
・アントニオの思い出の品は全部捨てたはずなのに、ラストの再会直前に新婚旅行でもらったイヤリングを付けたシーン。

どのシーンも無駄は無く、事前に伏線が張られており、気付く気付かないで映画の評価が変わります。

※子供の名前がアントニオなのは女々しさや未練からではありません。彼女は賢く行動力があり、芯のブレないキャラ設定です。「上書き消去法 シロクマ効果」で検索したら分かりますよ。

他にもありますが、文字制限で限界です。
たくさんの人が名画を楽しめますように…。


(最後に)

アントニオは間違いなく死んでいた。そして母もジョバンナも死を受け入れることになっていた。

戦友に別れを告げたあの時に、本当にあの人生は一度完全に終わっている。

しかしマーシャが抜け殻に、奇跡の息吹(いぶき)を吹き込んだ。

“この新しい命はこの子を守る為にさずけられた命だ。”

彼は懸命に彼女と生きる為に支え合った。


彼が簡単に浮気をする人なら、逆にこうなっていなかったかも?と考えると、複雑な心境になります。みんなつらすぎる…

戦争が無くなりますように…。



(デ・シーカは映画から論争戦争が起きないよう、どの国も批判することなく戦争そのものに焦点を当てて批判をしてきたようにも思われます。見ようによってはソ連の本来あるべき姿はこうあるべきだと皮肉を込めたメッセージも含まれたかもしれません。)
n4

n4