三樹夫

シリアスマンの三樹夫のレビュー・感想・評価

シリアスマン(2009年製作の映画)
3.7
いくつかのレイヤーがある映画で、表層的にはコーエン兄弟が得意とする訳の分からない人が多数出てきて訳の分からないことをやっていくコメディかつ次々不運に見舞われるユダヤ人主人公の悲劇的な喜劇だが、他にもユダヤ教というレイヤーもある。

主人公はユダヤ人の物理学の教授で妻娘息子の四人家族でそこに無職兄も転がり込んで暮らしているが、変な奴に次々出会いトラブルに見舞われまくる。妻は離婚して欲しいと言ってくるが離婚論法が滅茶苦茶で話が通じないし、娘は髪ばかり洗っているし、息子はアンテナ直せばかり言ってくるし、兄は風呂に何時間もこもってオデキの膿を絞り出しているいるので、娘と風呂場争いみたいなことになる。一歩外に出れば右翼の嫌なオヤジが隣人でオヤジの妻はエロいし、職場に行けば物理に数学が必要とは知りませんでしたと学生に無茶苦茶な絡まれ方をする。こういうのを観ていてゲラゲラ笑うコメディになっているのだが、主人公は真面目マンで真剣に悩み何人かのラビに会い相談するが、ラビもまたクセのすごい訳の分からない奴で訳の分からないことしか言ってこないという、出てくる全員が訳の分からないコメディ映画だ。

ユダヤ教の要素が通底しているがなじみが無さ過ぎて何の話なんだとなること必須で、ユダヤ教徒でなければ正直アメリカ人もあまり分からないらしい。調べたところ神とサタンがヨブの信仰心を試すため次々試練を与えるという、神ってほんとゴミクズ野郎よねとなる『ヨブ記』の影響が指摘されているが、『ヨブ記』を参考にしてるのかとインタビューで訊かれた際には、イーサンは「そんなことは思ったことがなかった」「この映画はちょっとオタクっぽい小市民についての究極のジョークのようなものでもあるんだよ。そのオタクっぽい小市民に災難がふりかかるんだ」、ジョエルは「この映画が『ヨブ記』のようだとは僕らは思っていなかった。ただ、自分たちの映画を作っていただけだ。関連性については理解するが、僕らの考えではないね」と答えている。
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