Kuuta

ベネデッタのKuutaのレビュー・感想・評価

ベネデッタ(2021年製作の映画)
4.1
ナチスやカトリックの横暴、追従する民衆の掌返しと暴力への熱狂。ファシズムを扱ってきたバーホーベンの作家性は、現代フランスが舞台の前作「ELLE」において「女性は女性でいろ」という社会からの同調圧力として、フェミニズム的テーマと真っ直ぐに繋がった。今作は女性が肉体を使って革命を起こした実話。即物性が世界を動かすという、元気が出てくる話。過去作のテーマが詰まった集大成的な内容でもある。

・虚実の区別が元々ついていない中世の人たち。バリー・リンドン的コント感、劇中劇のようなメタ視点が張られ、本心は最後まで分からない。しかし、蛇シャー!からの王子様なイエスや、鏡のように変化する肉体など、心に起きていること、現実に起きていることはそのまんま映像化されている。バルトロメアの他者愛とベネデッタの神への愛のズレを、ドン引きオナニーからの号泣で示す力技!

・法廷ものではない。聖痕の偽証ではなく、同性愛が問題視された。
ベネデッタの証言(視点)は、拷問の声を聞く場面などを除き排除されている。割れた陶器で縄を切って生き延びる。欲望と信仰心を等価に捉え、虚実の区別をうまく使う、人をうまく使う人だけが生き延びる。それが神との対話を全うすることだと、ベネデッタは本気で信じている。初期作から一貫してイエスを描くバーホーベンが、ベネデッタと重なる。彼は映画という嘘を操り、自らの信念を世界へ伝え続ける闘士だ。

・火を燃やして骸骨=死を追い払う、という全体構造。火炙りで街が浄化し、女性が価値を転倒させる。しかしシャーロット・ランプリングのキャラクター、黙っていた女性が黙らなくなる、ベネデッタに導かれる形で神を見つけているものの、本当にそれは神なのか?この暴動は正しい行いなのか?裁かるるジャンヌのようなわっしょいわっしょい展開にも関わらず、白黒で割り切れない感情を生み出す手腕は流石。
Kuuta

Kuuta