かなり悪いオヤジ

ベネデッタのかなり悪いオヤジのレビュー・感想・評価

ベネデッタ(2021年製作の映画)
3.3
ポール・バーホーベン自身は無神論者らしいが、インタビュー記事等を読んでみると、キリスト教ならびにイエスのことをかなり勉強しているっぽいのである。欧米の映画監督(バーホーベンはアムステルダム出身のオランダ人)なら当たり前のことかもしれないが、あの『ロボ・コップ』のモチーフがまさかイエス・キリストだったとは。公開当時それに気づいた人はほとんどいなかったに違いない。

17世紀に実在した修道女ベネデッタ・カルリーニ(ビルジニー・エフィア)の物語は、一見するとジャンヌ・ダルク風の宗教ネタのようにも思える。が、聖痕、幻視、憑依、伝染病(ペスト)をまるで奇跡が起きているかのようにみせかけて、修道院長に上り詰めた成り上がり物語のようにも見えるのだ。“キリストの妻”を名のりながら修道院長のみに与えられる個室で、愛人バルトロメア(ダフネ・パタキア)とイチャコラ♥️することが真の目的だったのではないか、そんな演出意図を感じるのである。

教皇大使(ランベール・ウィルソン)を頂点とする男性社会でのしあがっていくために“奇跡”をフル活用したベネデッタの姿は、現代のフェミニストと相通じるものがあるだろう。キリストまたはバルトロメアとの愛に生きようとしたベネデッタに対し、元修道院長フェリシタ(シャーロット・ランプリング)が信じるのは“マネー”だけ。元修道院長でありながら最期まで神の存在を信用しなかったフェリシタの耳元にベネデッタは(ウソの?)神の御告げをそっと囁くのである。

が、この映画反フェミニズムを背景にした宗教映画として見るにはあまりにも不謹慎であり、ボカシ入りまくりのエロチック・コメディにしてはかなり中途半端。バーホーベンお得意の“いかがわしさ”があまり感じられないのである。御歳84という高齢が往年の毒舌に手心を加えさせたのか、無神論者とはいいながら神の存在を心のどこかで信じてはいるせいなのかはわからない。むしろ十分にいかがわしい現代社会がオランダ人鬼才監督を追い抜いてしまったかのようだ。

キリストの霊が憑依した?ベネデッタが劇中こう叫ぶのである。「(この映画の良さが)なぜお前たちにはわからないのだ!」そう言われたってねぇ、マリア像をディルド代わりに使った百合プレイを見せられたって、今時誰も何とも思わんでしょう。むしろ伝説の拷問器具“苦悩の梨”の方に興味をそそられた人の方が多かったのでは。『あのこと』の堕胎シーンを見た後だけに、余計そう思ったのかもしれません。なんつって。