シャチ状球体

MIRRORLIAR FILMS Season1のシャチ状球体のレビュー・感想・評価

MIRRORLIAR FILMS Season1(2021年製作の映画)
4.0
枝優花監督作品目当てで視聴。
9人の監督がそれぞれ制作した短編を集めたオムニバス映画。玉石混交の様々な物語を観られるのが一番の魅力で、気になる俳優や監督がいれば全編視聴しても損はしない。
明日(2022/02/18)までAbemaにて無料で観れます。

以下各作品の短い感想。


『暴れる女』 4/5

浅黒いブルーを基調とした画作りが秀逸。思わず見惚れてしまうほどのショットが多数。
"どんよりとした青空"の下で行われる暴力とセックスのリアリティを、友近のVシネマ風の演技が良い意味で相殺している。
引きのカットは全て美しいが、主張の激しい音楽とは反りが合っていない。

『無事なる三匹プラスワン コロナ死闘篇』 3/5

中年男性たちを"三匹"と表現するセンス。煩悩だらけの三人と東日本大震災やコロナ禍とを結びつける必要性は感じられない。
上映時間が短いので苦痛になる前に終わってくれるのは良いところ。

『INSIDE』 3.5/5

日本版『籠の中の乙女』。
繰り返される長尺の食事シーンが歪な親子関係を暗示させていて巧い。
それを除くと、何故か近未来的な電子錠や直球過ぎるドアの張り紙といった不自然な設定が目立つ。
想像力を働かせるラストは上映時間がもっと長ければより吸引力があったと思う。

『Petto』 5/5

ジェンダー平等とは程遠い現代日本に"適応"してしまった女の子たちの輪に入れない春乃の実存的不安を繊細なタッチで描く。

原体験の中でのミューズであるめっちゃんと再会したことで初めて春乃の中でめっちゃんという他者が生まれていく(心の距離が適切な場所に収まっていく)様子は、"成長とは他者という概念から記号性を取り払えるようになること"だということを教えてくれる。

また、総理大臣をペットとして登場させることで主権者教育が行き届いていないために政治参加を忌避する傾向にある日本の恐ろしく奇妙な現実を間接的に浮き彫りにさせる手腕が見事の一言。

枝監督の映画はいつも"理想的な他者"が融解していく様子が非常にリアルで、他者は自分とは全く異質なものであるからこそ他者なのだ、という本質、そして自分らしくあれる場所が時間・空間問わず一つでもあればそれでいいということを優しく寄り添うように描いてくれるから好き。

『充電人』 3/5

理屈の無さが潔い。

『無題』 3.5/5

主人公のイツキが撮るホームレスの少女を主人公にした映画は、主人公の年齢は違えどまんま『神様なんかくそくらえ』。
「すっごい引きの画の中にポツンと光ちゃんの家があるような……」
という台詞は上述の映画の冒頭シーンそっくりなので、監督が意識していることは間違いない。
『無題』の内容としては、説明台詞が多くて非常に説教臭いのであまり頭に残る物は無いけど、貧困や社会問題をコンテンツとして消費してしまう作品や社会全体を覆うそういった空気についての最低限の問題提起はできている。

『B級文化遺産』 3.5/5 

ひょんなことからマンホールや信号機に銃撃されることになった青年がスケボーで街を駆け巡るお話。
ドラマは無いけど、虚無・嫉妬・絶望のトリプルパンチが襲い掛かるラストは理不尽過ぎて面白いかも。

『さくら、』 2.5/5

食事シーンとセックスシーンを同時に映すというセンスの無さ。わざわざこういうカットを挟まなくても登場人物が食事をしてるだけでいくらでも性のメタファーとして成立しようがあるのに、これはくどい。

非情に回りくどい話し方をする登場人物、血に染まるシャワーのお湯といった描写を含め、何か深くて抽象的な愛の物語を作ろうとした痕跡は伺える……。
全体的に豪華キャストを活かしきれていない印象。
監督としての安藤政信、まだ始まっちゃいねえよ。

『inside you』 4/5

”私"はどこから来てどこへ行くのか。自分探しの思考の旅をうまく言語化したナレーションに引き込まれる。
自分が選択したこと、しなかったこと、今ここにいること、ここじゃない場所にいたかもしれないこと、全てがぐちゃぐちゃになって何も見えなくなっても、今この瞬間だけは"それ"を感じている。
シャチ状球体

シャチ状球体